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家庭内事故の傾向と対策 ーリビング編ー

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1.はじめに

近年、家庭内事故による死亡者数が増加していることに着目し、ミサワホーム総合研究所では、安全安心な住まいづくりの実現に向けて、家庭内事故の実態について調査・研究に取り組んでいます。前報(Mレポ vol.115)では、階段での家庭内事故発生状況に関する調査結果と安全対策を報告しました。今回は、ケガ等の発生が2番目に多かったリビングでの家庭内事故調査の結果について報告します。

調査概要
2000年以降に竣工した持家戸建住宅に居住する、30歳以上の男女を対象に、自宅の居間・リビング(以下リビング)で起きたケガ等に関するアンケート調査を実施しました。アンケートではリビングの環境、ケガの種類、事故が起きた当時の状況についてたずねました※1

 

2.結果

リビングでは「転倒」が最も多い
リビングでの家庭内事故の種類は、大人・子ども※2共に「転倒」「衝突」「転落」の順に多いことが分かりました(図1)。更に、転倒の原因(図2)は、大人・子ども共に「つまずき」「スリップ」「足のもつれ」の順に多く、「つまずき」においては、大人・子ども共に全体の約4割を占めていました。


(図1)事故の種類(リビング)

 


(図2)転倒の原因

 

「つまずき」の原因
転倒時に「つまずき」の原因となったもの(図3)について、大人は「家電機器の配線・延長コード類(22.7%)」「ラグ・マット等(21.2%)」「床段差部(18.9%)」の順に多いことが分かりました。また子どもは「床段差部(27.3%)」「ラグ・マット類(21.2%)」「家電器具の本体(12.1%)」という結果でした。このことから、大人・子ども共に「つまずき」の原因として家電機器やその配線が上位に挙がっていることが分かります。したがって、住宅のバリアフリー対策に加え、家電機器本体の配置やコンセントとの位置関係にも注意を払い、配線が歩行の妨げにならないよう工夫することが、リビング内での転倒事故防止に効果的だと考えられます。


(図3)転倒「つまずき」の原因となったもの

 

転倒時の状況は“急ぎの場面や疲労”が多い
大人のみを対象に、リビングで転倒事故が発生した当時の体調・気分についてたずねたところ、多い順に「急いでいた(27.6%)」「疲れていた(26.3%)」「特に普段と変わった点はなかった(21.0%)」という結果でした。また年齢別では、40代で「疲れていた(36.5%)」「眠かった(18.8%)」が、50代では「急いでいた(35.4%)」、60代は「特に普段と変わった点はなかった(34.1%)」が全体に比べ高い傾向が見られました(図4)。このことから、50代までは、急ぎの場面や疲労、眠気など、普段と違う状況下で転倒が起きていることが伺えます。


(図4)転倒事故発生当時の体調・気分(年齢別)

 

転倒群のリビングはモノが多い傾向
前段で述べたように家電機器の配線等が転倒・つまずきの主な原因となっていたことから、リビングにある家電機器等の数について、「転倒あり」の方と、ケガやヒヤリハット※3含め「なし」の方を比較しました。その結果、「転倒あり」の方は平均5.1個で、ケガ・ヒヤリハット「なし」の方(平均4.4個)に比べて、家電機器等の数が多いという結果でした。家具等の数についても同じ傾向がみられ、「転倒あり」の方が、「ケガやヒヤリハットなし」に比べ、モノの多いリビング環境であることが確認されました(表1)

(表1)リビング内にある物の数

 

衝突・転落などは家具関連が多い
リビングで発生した家庭内事故の種類のうち、「衝突(ぶつかる)」「転落」等について、事故が発生した場所を詳しく尋ねた結果(図5)、大人は多い順に「テーブル(20.3%)」「ソファ・椅子(13.9%)」「ローテーブル・座卓(9.3%)」「キッチンカウンター(9. 3%)」、子どもは「ソファ・椅子(23.9%)」「テーブル(20.3%)」「ローテーブル・座卓(15.2%)」「室内ドア(8.0%)」という結果でした。特に、子どものリビングでの転落事故(図6)の約6割が「ソファ・椅子」で発生しており、そのうち約8割が5歳未満の子どもでした。このことから、お子さんが小さいうちは、転落事故のリスクを減らすためにソファの設置を控えるなど、リビングの家具配置を工夫することが有効だと考えられます。


(図5)事故(転倒以外)が発生した部位


(図6)子どもの転落事故が発生した部位

 

3.リビングでの安全対策

階段での家庭内事故について、建築環境、ケガの種類、事故が起きた当時の状況を分析した結果、階段での事故を防ぐための設計ポイントは以下の3点が考えられます。

①バリアフリー対策の徹底
調査結果から、リビングで発生する事故の中では転倒が最も多く、転倒の原因としては大人・子ども共に「つまずき」「スリップ」「足のもつれ」の順に多いことが分かりました。改めて「つまずき」の原因となる床段差をなくし、バリアフリー化を徹底することの重要性が確認されました。また、ラグ・マット類の端部でつまずく事例も一定数見られるため、思い切ってラグ等を使用しないことも選択肢に入れると良いでしょう。また、「スリップ」対策としては、滑りにくい床材を選ぶことが重要です。さらに、床に足掛かりとなる物を置きっぱなしにしないよう、リビング内に十分な収納スペースを確保し、整理整頓を心がけることが事故防止につながります。

 

②生活場面を具体的にイメージし、生活動線や家電・インテリアとセットでコンセント位置を計画
バリアフリー対策のほかに、家電機器やコンセントの位置にも注意が必要であることが分かりました。出入口やダイニングテーブル、ソファ等の位置から、ある程度は生活動線が予想できるので、コンセントと家電の配線コード等が生活動線にかからないよう、計画するとよいでしょう(図7)


(図7)生活動線とコンセント位置(ダイニング周辺)

 

③キッチンの安全対策(LDKの場合)
リビングの間取りについて、今回の調査対象者の約8割がLDK(リビングと食堂とキッチンの機能が1部屋に併存しているタイプ)でした。LDK は部屋全体が見渡しやすく、子どもの見守りがしやすい一方で、個室型のキッチンに比べ子どもがキッチンに入りやすくなります。小さなお子さんのいるご家庭では、キッチンに入れないようベビーゲートが設置できるようにしておくと安心です(図8)。また、チャイルドロック付きのコンロを選択する等、設備面の安全対策も忘れずに行うとよいでしょう。


(図8)ベビーゲート設置可能な小壁を作る

なお、今回の調査では、誤飲・誤食・窒息に関する報告は確認されませんでした。しかし一般に窒息事故は0~4歳児、高齢者に多いといわれています※4。特に、子どもの窒息を防ぐためには、誤食・誤飲につながる危険物をお子さんの手が届かない場所に保管することが重要です。具体的には、鍵付きの収納や高い位置に収納スペースを設けるなど、住まいの安全対策を徹底することが有効です。

 

4.まとめ

住宅内で多発する階段やリビング等での事故の実態に関する調査結果と、その安全対策について、前編・後編に分けて報告しました。新築やリフォームの際には、家具や家電の配置、コンセントの位置・数など、建築基準法の範疇に含まれない細部についても、設計者と相談し、生活動線やインテリアの安全性を高める工夫をかさねることが、住宅での事故を防ぐ上で重要といえます。また住まいの安全性を高めることは、安心して長く暮らせる住環境の実現や資産価値の維持・向上にもつながります。今後も、すべての世代が安心して暮らせる住まいづくりのために、家庭内事故の予防に向けた取り組みを一層推進してまいります。

 

※1調査概要
調査名:リビングでの家庭内事故調査
調査期間:2024年2月
調査方法:Webアンケート調査
対象:2000年以降に竣工した持家戸建住宅に住む30歳以上の男女(n=1000)

※2本稿では大人は30歳以上、子どもは15歳未満としています。

※3「ヒヤリハット」とは、危ないことが起こったが、幸いケガや災害には至らなかった事象を指します。

※4東京消防庁:救急搬送データからみる日常生活の事故(令和5年)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/elib/kkhdata/index.html

関連リンク:「AMENITY[バリアフリー]」