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デジタル時代の住宅と設備機器の劣化・故障診断技術開発
―ガス給湯器の診断手法のご紹介―

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はじめに

住宅とそこに設置される設備や家電製品は長期間利用されるものですが、100年以上劣化しない長寿命住宅は実現されていません。“100年住宅”と称する長寿命住宅の例は見受けられるものの、それは一切の手入れをしないで100年間使い続けられる住宅という訳ではなく、適切なタイミングで補修やメンテナンスを行う必要があります。劣化や故障により様々なタイミングで発生する不具合に効率的に対応するには、それらの予兆を早期発見して、重症化前に適切なタイミングでメンテナンスをするのが効果的です。

しかし、通常の定期点検ではこうした対応が難しいだけでなく、高齢化などによる人員減少の影響で、それすらも難しくなりつつあるのが現状です。

なぜ劣化・故障診断が必要なのか

屋根や壁に用いる建材などは、太陽光や雨や気温などの気象条件により劣化が進みます。劣化スピードは比較的に緩やかなので、現状の定期点検で対応可能です。建材の寿命は実験を通じて耐久年数が決定されるので、建設地の気象条件が分かれば劣化度合いを戸別に想定することができます。日本気象協会などが提供する気象情報を活用するのが現実的でしょう。

住宅の屋根に設謹される太陽光発電システム(PV発電システム)は、電気が目に見えないことから、故障や劣化に気付くのが困難です。しかし、売電への影響があるので、リアルタイムに異常を検知して即時にメンテナンスを実施することが望まれます。HEMS(エネルギーのやり繰りや家電の制御などを行う装置)が設置されている家庭では発電量の確認はできますが、それが設計通りの値であるか否かの判断をするのは難しいでしょう。発電量は、PVシステムを設置する住宅の緯度経度高度と太陽電池の設謹方位、傾き、容量が分かれば簡単にシミュレーションできるので、原理的にはシミュレーション値と実際の発電量を比較することで異常を検知することが可能です。日射量センサーは高額でPV発電システムに比べて短寿命なので、センサーを設置して日射量を計測するのは現実的ではなく気象データを活用したいところです。しかし、気象観測衛星の情報などを利用した高解像度の日射量予想情報であっても精度が不十分なので、利活用には晴天時に限定して評価するなどの工夫が必要になります。

設備機器や家電製品の多くは、製品の劣化や故障に関する情報は一部のエラー情報を除いて公開されていません。また、一軒の住宅の中でも様々なメーカーの多種多様な機器が混在して設置されていることから対応が難しいのが現状です。

劣化・故障診断の手法の開発(ガス給湯器)

このレポートではガス給湯器を例にとって劣化・故障診断の事例をご紹介します。住宅の定期点検に合わせて専門家でない点検員でもできる、簡易で低コストな手法です。

ガス給湯器の寿命は平均値でいえば10年以上とされますが、お湯の使用量や使用頻度、装置が設置されている周辺の環境により変化することが知られています。給湯器は高額な上、機能停止の不都合が大きいので、メンテナンスや機器交換の時期が事前に分かれば、重症化前に修理や購入費の積み立てなどの対策をとることが期待できます。

そこで、ミサワホーム総合研究所では、ガス給湯器に関する情報の中から所定の手順を理解した点検員であれば現地の給湯器リモコンから取得可能な情報を用いて劣化・故障診断を行える手法をメーカーの協力を得ながら開発しました。

燃焼部品の劣化は避けられないので、ガス給湯器メーカーは装置の燃焼時間や燃焼回数などを想定して製品の設計を行います。例えば、燃焼時間を1日に1時間、10年間で3650時間を想定して、これに耐えられる設計を行います。そのため、燃焼時間が想定より長い家庭(お湯の使用量が多いご家庭)の場合は設計より早く寿命を迎えることになります。つまり、設置から点検に至るまでの燃焼時間が分かれば、設計寿命に至るまでに残り何時間の燃焼が可能か(余命)を算出できます。そして、点検時までと同じお湯の使い方をした場合に設計寿命に至る時期が推定できます。燃焼回数についても同様の設計想定があるので燃焼時間と同様に設計寿命に至る時期が算出可能です。(図1)

(図1)寿命予測ロジック説明図

西暦2000年ごろに登場したエコジョーズは、給湯効率が良いメリットの見返りに、機器から排出される酸性のドレン水が発生するので、それを中和するために装置内に一定量の中和剤が搭載されています。そして中和剤が無くなると装置は給湯を停止する様に設計されています。当然、設計寿命に対して充分な量の中和剤が搭載されていますが、お湯の使用量が極端に多いご家庭では稀に中和剤切れが発生します。定期点検時に中和剤の残量情報は取得できるので、中和剤の無くなる時期を把握して、事前に中和剤を補給すれば、お湯が出ない不都合は防止できます。


(図2)現地でのガス給湯器情報の確認作業

また、給湯器のリモコンに記憶されている過去のエラー情報からは劣化や故障の手掛かりを得ることが期待されますが、給湯器が記憶しているエラー情報が直近の数件に限られているため、現在は故障に直結する重大な工ラー発生の有無を参考程度に把握するレベルに留まっています。こうしたリモコンからの情報の他、通常点検で行われる簡易な目視点検やヒアリングを含めて現地での作業は、慣れれば5~10分程度で実施可能です。(図2)ミサワホームでは、このような点検で得られた情報を入力すれば(図3)、ガス給湯器の劣化・故障に関する診断書が自動的に作成されるアプリを開発し、点検者向けに提供を始めました。

 

(図3)現地点検読み取り項目例

 

評価はA~Dの4段階として、Dなら直ぐに交換検討、Cならそろそろ修理や交換検討といった、その後の対応が分かりやすい表現を工夫しています。より詳しい検査を望む場合は、有償でメーカーによる点検の依頼も可能です。(図4)

(図4)診断書イメージ

最適なタイミングで劣化・異常を把握するためには

現在の定期点検ではガス給湯器の劣化や異常を最適なタイミングで把握することはできません。こうした状況を改善する一手としては、遠隔地から給湯器の情報を取得する手法が考えられます。外出先からのお湯はりや浴室の見守り機能などの付加機能を訴求するガス給湯器が標準化すれば、劣化や故障の診断に必要なデータもネットワークを通じてリアルタイムに取得でき、任意の最適なタイミングで劣化・故障診断が行えるだけでなく、より精密な検査の可能性も考えられるので、一部のメーカーとこうした実証試験を開始しています。

今後の展開

ここまで、ガス給湯器の診断についてご紹介をしてきましたが、エコキュートヘの対応も進んでいます。また、利用期間が長く高額なその他の設備機器や家電製品についても研究開発を続けています。この様にミサワホーム総合研究所では、住宅メーカーが提供する建物自体の劣化・故障診断と並行して、設備機器や家電製品の診断についても着手可能なものから実装に努めています。そして、100年の間でも最適なメンテナンス運用ができる住宅の未来を創っていきたいと考えています。