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環境行動を引き出す涼風制御システムの開発

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1.背景

現在、照明やエアコン・テレビ等の家電をスマートフォンやAIスピーカーを通じて操作するだけではなく、図1に示すような電動サッシ・トップライト・排熱ファン・シーリングファン・カーテン・電動シャッター等の設備の開閉や発停を制御することも可能となってきています。

さらに上記の設備と、図2に示すような住宅内外の温湿度・降雨・風速・CO2センサー、気象情報、AIスピーカー・スマートフォンといったセンサー・Webサービス・機器をWiFi対応端末と連携させ、居住者に自然換気を促す、遠隔で操作する、あるいは自動で制御することが実現できるようになっています。

またIFTTTと呼ばれるWebサービス同士を連携させるサービスを使うことで、居住者の生活行動に合わせ、携帯するスマートフォンのGPS機能を使って操作する、居住者の就寝行動に合わせて操作するといった、居住者の生活行動と連動した自然換気の制御も居住者自身の設定で実現することができます。脱炭素社会の実現とともに、微気候デザインを考慮した住宅設備を設置し、居住者に積極的な環境行動を促すことを目的として、ミサワホーム総合研究所ではIoT(Internet of Things)技術や多様なWebサービスと設備を連携させるシステムやロジックの開発を進めています。ミサワホーム総合研究所ではこれらの取り組みを兼ねてより実施してきており、住宅内外の温度センサー、電動トップライト、シーリングファン、エアコンを連携し、自動で自然換気・エアコンの発停を制御するシステム(以下、涼風制御システム)を開発しています。

2.涼風制御システムの概要

涼風制御システムは、任意に設定した基準温度付近(測定時は28℃)に室温を保つため、屋外が涼しくなるとエアコンを停止して排熱用トップライトを開放し外気を取り入れ、室内上部に滞留した熱気を排出します。さらに内外温度差が小さくなり、温度差換気が利用しづらくなると、トップライト直下に配置したシーリングファンが回転し、排熱を促します。そして日中屋外気温が上昇し、基準温度以上になると、室温を維持できないと判断し、トップライトは自動で閉じられます。そしてさらに室温が上昇し、基準温度を1℃以上超えるとエアコン運転を開始し、室温を基準温度付近に維持します。また日没後、再び外気温が基準温度以下になるとエアコンを自動的に停止し、外気を取り入れます。また暑熱順化や着衣量を考慮して、中間期と夏期で基準温度は変更できるようになっていて、月日または基準となる移動平均外気温により季節のモードを判別することも可能です。またトップライトには雨センサや開閉センサも設置されていて、スマートフォンを使った遠隔での開閉操作も可能であるため、外出時にも安心して運転することが可能なシステムとなっています。

3.測定事例

埼玉県熊谷市内戸建住宅地に立地する木造2階建戸建住宅で、涼風制御システムによるトップライト・シーリングファン・エアコン運転に関する夏季測定を実施した事例を以下に示します。測定期間内においては7/25~8/12(以下、盛夏期間)は梅雨明け直後で晴天が続き連日猛暑日が続いていました。一方、8/13~8/23(以下、残暑期間)は天候不順で最高気温が30℃前後の日が多くみられました。それぞれの期間で自動制御に基づく時刻別の窓開放頻度を窓開放率βtとして盛夏と残暑期間に分けて整理した結果、盛夏期では、平均外気温が28℃以上となる7~21時頃までは最大10%程度の窓開放率で、50%以上の窓開放率となるのは3~6時の早朝の時間帯のみとなりました。一方、図3に示す残暑期(8/13~8/23)では、平均外気温が終日28℃未満となり、窓開放率は盛夏期よりも大幅に上昇し、窓開放率が10%程度となるのは14~18時の4時間のみとなり、積極的な外気導入を図ることができました。

また図4は盛夏期における各設備の運転実績例で、明け方までは冷房することなくトップライトを開放して室内の排熱と外気導入を促しています。

その後朝7時半頃に外気導入がむしろ室温上昇につながると判断し、トップライトは閉じられました。そしてしばらくはエアコンを運転することなく室内環境を維持していますが、12時過ぎに基準温度を超えたため、エアコンが稼働し始めました。当日は最高気温が35℃を超える猛暑日であったため、夜まで断続的にエアコン運転が続きましたが、外気温の低下に伴い22時過ぎにエアコン運転を停止し、トップライトが開いて外気を導入する運転に切り替わりました。窓を閉じた状態で屋内で過ごしていると、屋外が涼しくなってきたとしても気づきにくい状態となりますが、涼風制御システムは自然と外気導入を促すとともに、エアコンの運転時間を抑える効果があります。また本システムの利用について居住者は、スマートフォンにインストールしたアプリ上から任意で自動制御の有無を選択することができ、エアコンとの連動についても選択できるため、居住者の思い通りの制御が実現できるシステムとなっています。

4.今後の展開

涼風制御システムを更に効果的に利用していくためには、積極的な外気導入に必要な十分な開口面積の確保や通風・換気経路が制御できる住宅設計と合わせた検討が必要となります。また窓を開閉させる手段の選択肢をいかに増やし、機会を創出するかも居住者の環境行動を促すには重要です。現在では①居住者による専用リモコンでの操作、②AIスピーカーによる音声操作、③スマートフォンを利用した遠隔操作やタイマー操作、④内外温度を基準とするロジック制御による操作、⑤気象情報と連動した操作を主には想定していますが、生活シーンの中で日射制御や自然通風・換気等のパッシブな住まい方を取り入れても良い機会は季節を問わず多くあります。また屋外の散水設備と連動して冷風を創り出し、屋内に取り入れる仕組みや弱風時は外気導入をアシストする補助ファンと組み合わせる等、より快適な環境を生み出しながら外気導入を図ることも目指しています。 このような微気候デザインを取り入れた住宅は、災害時にもある程度快適に過ごせるレジリエンス機能としての役割も持ち合わせていることから、環境と調和し、人を守り育てる住宅として、今後も普及を進めていければと考えています。

 

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