木造住宅で発生する騒音
木造住宅は、RC造の住宅に比べて構成材料が軽い等の構造的な理由によって、遮音性能の担保が難しいとされています。住宅内で発生する騒音は、「空気伝搬音」と「固体伝搬音」に大別されますが、特に問題となりやすいのは、話し声などの空気伝搬音ではなく、歩行や器物の落下による衝撃によって発生した床振動が下階の室へ伝搬し、上階の床面、下階の天井面、壁面、床面が振動して室内に音として放射される固体伝搬音である場合が多いことです。この様な固体伝搬音は「床衝撃音」と呼ばれ、器物落下のコツコツという音などの「軽量床衝撃音」と、素足歩行のドスンドスンという音などの「重量床衝撃音」に分けられます。軽量床衝撃音の対策方法は、柔らかい床仕上げ材を用いる方法が一般的で、仕上げ材の緩衝効果によって大きな性能改善が可能であるため、それ程問題とはならない場合が多いのですが、重量床衝撃音は重くて柔らかい衝撃源であるために、床仕上げ材が圧密されて緩衝効果が殆ど期待できず、床構造の剛性や質量の増加、あるいは振動絶縁といった対策が必要となり、設計段階で十分な対策を行わないと竣工後の対策が困難となります。
低減対象とした騒音
こうした理由からミサワホーム総合研究所では、木造住宅を対象に、最も対策が難しい重量床衝撃音遮断性能を向上させることを目的とし、高遮音となる床仕様の開発を行いました。対策手法には、躯体より先に衝撃を受けることによって躯体への振動伝達を低減することが可能な二重床を用いることとしました。
重量床衝撃音の測定・評価と目標性能
(写真) バングマシン(標準重量衝撃源)
測定方法はJIS A 1418-2、評価方法はJIS A 1419-2に規定されています。具体的な測定方法は、バングマシンと呼ばれる装置(上写真)を用いてタイヤで床を加振し、下階で発生する音をオクターブバンドの周波数帯域毎(63Hz、125Hz、250Hz、500Hzの4帯域)に騒音計で計測します。一方評価方法は、測定結果をL曲線と呼ばれる等級曲線(図1)にあてはめて性能値を求めます。評価結果は、L,-xx(xxは数値)で表され、数値が小さいほど性能が良いことを示しています。
(図1) 床衝撃音遮断性能の等級曲線
開発の目標性能は、実棟でのL,-55の達成、二重床の適用の有無で3ランク(15dB)程度の改善としました。L,-55は厚さ200mmのRCスラブの性能に相当します。また音が10dB小さくなれば、感覚的には1/2の大きさに聞こえるとされています。なお開発の前提条件として、運用が可能となるように、躯体を特別仕様としない標準的な床構造を用いることとしました。
実験対象とした建物
木質接着パネル工法で製作された実大の住宅実験棟(8畳2間の2層)を用いて基礎検討を行い、仕様を確定させた後、同じ工法の住宅展示場へ適用して実棟での性能検証を実施しました。
図2は実験棟の1階・2階平面図です。実験対象としたのは直上下となるB室で、躯体となる床パネルより上側と下側の仕様を変更させながら、重量床衝撃音測定を行いました。
●印S1~S5が加振点、○印L1~L5が受音点(床上1.2m位置)です。
(図2) 実大実験棟平面図(寸法単位:mm)
住宅展示場は3階建で、建築面積139.94m²、延床面積288.89m²の規模です。図3は住宅展示場の1階・2階の測定対象室平面図です。測定対象としたのは直上下となる2階居間1と1階主寝室1で、室の大きさは3,640mm×4,323mmあります。
この図の中●印S1~S5を加振点、○印L1~L5を受音点(床上1.2m位置)として、重量床衝撃音を測定しました。
(図3) 住宅展示場の測定対象室平面図(寸法単位:mm)
実験結果
実験棟において、最終的にL,-55の性能を確認した床・天井構造の断面図が図4です。床パネルより上は、パネル側から順に、普通硬質せっこうボード12.5mm、二層二重床の下側層(淡路技建製 防振アジャスターE型:空気層55mm、パーティクルボード20mm)、二層二重床の上側層(パーティクルボード台座20mm、パーティクルボード20mm、遮音マット18mm、下地用合板5mm、フローリング代替用合板12mm)です。パネルより下は、同順に、せっこうボード12.5mm×2、独立天井(ロックウール55mm、一部分に遮音マット18mm、木製野縁組、せっこうボード12.5mm×2)です。この二重床の大きな特徴には、標準的な一層構造ではなく、二層構造(二層二重床)となっていることが挙げられます。
(図4) 実験棟でL,-55を確認した床仕様
二重床を一層から二層にした時の床衝撃音レベル改善量が表1です。一層は、図4の二重床の下側層まで施工し、その上に合板12mmを設置しました。二層は、上側層のパーティクルボード20mmまで施工後、合板12mmを設置しました。表1から、重量の性能決定周波数となる63Hz帯域では4.4dBの改善となり、性能向上に有効であることが分かります。
(表1) 二重床の性能比較(一層と二層)
また、図4に示した床・天井構造の状態と床パネル素面の状態(図4で床パネルより上の部材を施工する前の状態)の重量床衝撃音レベルを比較し、改善量で示したのが表2になります。二層二重床設置の効果は性能決定周波数である63Hz帯域で大きく現れ、14.5dB性能が向上しました。
(表2) 素面と二層二重床の性能比較
図5は実験棟及び展示場で実施した床衝撃音レベル測定結果を、評価曲線にプロットして示しています。実験棟の床・天井構造は図4の通りです。展示場も図4と構成は同様ですが、二層二重床の下側層の空気層が81.5mm、下地用合板が9mm、仕上げ材が一般フローリング12mmとなっている点が異なります。図5より、重量の測定結果は、実験棟でL数56、展示場でL数56となり、L,H-55を達成することができました。
なお本レポートには記載していませんが、在来木造の集合住宅でも二層二重床を適用することによって、木質接着パネル工法の床と同程度の性能と改善量が得られることを確かめています。更に、二重床は、二層としない単層の標準的な仕様を採用した場合でも有効であることを、木造床の様々な工法で確かめました。
(図5) 実験棟と展示場の床衝撃音レベル測定結果
まとめ
今回、木質接着パネル工法の住宅で標準的に運用されている床パネルを躯体に用いた場合、二層二重床を適用すればL,-55が達成できることが確かめられました。在来工法の床でも同様の効果が確認されており、今後様々な工法での検証が必要ではあるものの、二層二重床の適用によって、木造床であれば工法に関係なく3ランク程度の性能改善が見込まれると推察されます。今後は、様々な物件に適用して性能検証すると共に、安価で安定的に性能が確保されるように仕様を改善していく予定です。
なお、本レポートの二層二重床仕様は、NPO法人team Timberizeと淡路技建株式会社との共同研究による成果です。
参考文献
1) | 久原、他:在来床組工法と乾式遮音二重床を用いた3階建て木造集合住宅の床衝撃音実測結果、日本建築学会大会環境工学Ⅰ、pp.281-282、2016.8 |
2) | 内海、他:都心部に建つ4階建木造集合住宅における床衝撃音実測結果、日本建築学会環境工学Ⅰ、pp.151-152、2015.9 |
3) | 日野、他:CLTを用いた3階建て木造集合住宅の床衝撃音実測結果、日本建築学会大会環境工学Ⅰ、pp.321-322、2018.9 |