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地盤の液状化危険度をAIで判定
「被災度判定計GAINET」

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1.液状化現象

液状化現象とは、安定していた砂地盤が、地震時の振動によって地下水の圧力(間隙水圧※1)が高まり、液体状になる現象のことです。宅地地盤内の水圧が高まると、地割れなどを通して地表に砂と水が一緒に噴出します。この時、地盤の強度が著しく低下し、建物の沈下傾斜や地下埋設物の浮き上がりなどが起こります(図1)。

図1 地盤が液状化する 注1)

日本の地形は大きく山地や丘陵地、台地、低地などに分けられます。また、切土や盛土、埋め立て地などの人工的に造成された地形があります。液状化しやすい地形は、低地や人口造成地で、旧河道、三角州、後背湿地、干拓地そして埋立地などです。これらの土地は、地下水位が高く、ゆるく砂質土が堆積しているなどの特徴があります。

液状化現象が世の中の注目を集めることになったのは1964年の新潟地震以降です。地面から泥水が噴出し、鉄筋コンクリート造の公営アパートが大きく傾斜し、液状化が都市における被害要因として大きな問題となりました。その後、1995年の兵庫県南部地震や2011年の東北地方太平洋沖地震では、戸建住宅の液状化被害が広範囲にわたり、その液状化対策の整備が急務となり、国や自治体などによる液状化に関する調査・研究が進められ、2015年4月、住宅性能表示制度が見直され、「液状化に関する情報提供」の項目が追加されました。

小規模建築物・戸建住宅地区の被害(浦安市)注2)

2.宅地地盤の地震動は地盤の硬さで決まる

通常、住宅地は、平野の低地や山地や丘陵地でも平らにされた造成地などに発展してきました。ミサワホーム総合研究所は、東北大学 風間研究室と共同で、大規模造成地において地震計を設置し、観測を行ってきました。図2は、地盤の切盛りによって地震動がどの程度違うのかを実証的に調べたものです。切土(硬)と盛土(軟)で、最大加速度が50%、計測震度で0.4ほども違うことが明らかになりました。住宅の耐震性能は、住宅自体の構造強度のほか、建っている宅地の性能によって決まるのです。

図2 切土、盛土の揺れ方の違い

3.地震時の液状化予測・評価の重要性
(解決すべき課題)

自然災害リスクが極めて高い日本は、阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓より、いつ発生するかもしれない大きな地震に対し、地震発生時の安全確保のための注意喚起と地震収束後の安全確保や安心のための情報を提供するとともに、地震後も安心して生活できるようきめ細やかな復旧支援を行うことが重要です。

地盤の液状化被害は、世界中の地震国の共通課題でもあります。日本においても、東日本大震災では液状化現象が住宅のみならず社会基盤施設にも与えた影響は極めて大きく、かつ空間的に広がりを持つことが再認識されました。以上から、地震時の液状化予測・判定評価は、より広範な地域を対象として行われるべきであり、ビックデータ・ITの活用を見据えて、次のステージへ進むべきであることが示唆されています。

4.被災度判定計GAINET

ミサワホーム総合研究所とミサワホーム、KDDIが共同開発した被災度判定計「GAINET」は、住宅の基礎に設置する加速度センサーで地震波を計測し、表示部で分析したリアルタイム震度と建物及び地盤の被災度判定結果が表示されます。測定されたリアルタイム震度や被災度のデータは、高速データ通信が可能なLTE網を経由してクラウドサーバーに集約されるため、全国の建物ごとの被災度を短時間に把握し、緊急度に応じた入居者様サポートを行うことができます(Mレポvol.73参照)。

GAINETでは、建物の被災度判定評価と地盤の被災度として建物の地震収束後の建物の傾斜(又は地盤の傾斜)が判定できます。GAINETによって、地盤の状態を即時的に一次判定することができれば、迅速に液状化被害を評価・判定でき、かつ、既設の建物や社会基盤施設に対しても適用できるため、有効性がさらに高まります。

5.被災度判定の次のステージ液状化危険度の判定

GAINETでは、地盤の液状化危険度をAI技術で判定します。 通常、地盤の液状化危険度評価は、過剰間隙水圧※2の上昇によって有効応力※3が喪失されるプロセスを観測し、詳細な地盤調査に基づき専門家による判断が必要ですが、水圧計を宅地直下の地中に個々に埋設することは現実的ではありません。

そこで、GAINETを用いて、記録する地表面加速度と液状化の関係性から液状化被害を判定する研究を東北大学と共同で行ってきました。設置された地震計の地震動記録から危険度が判定できるので、詳細な地盤調査を不要とし、GAINETを住宅や多くの管理施設に設置することで、クラウド内で一元管理もできます。

大地震はめったに起きませんが、地震時の様子を再現できる3次元振動台実験を数多く行うことにより、AI分析に必要な教師データを作成することでAI評価を可能としました。

地盤の揺れを記録する地震動記録は、地盤特性を反映したものになります。液状化した地盤上での地震記録は、液状化しない地盤上の地震記録とは異なり、振幅が減少したり、長期化したりします。したがって、地震波形から液状化程度を評価するプロセスなのです。

液状化程度を定義する指標を地盤内の過剰間隙水圧比とし、機械学習手法の1つであるニューラルネットワーク(ANN:Artificial Neural Network)を使用することで、地表面加速度と過剰間隙水圧比の関係性から液状化程度を評価するシステムの構築を行いました。この判定システムをGAINETに適用することによって、実務への導入のしやすさが期待できます。具体的には、模型地盤を用いた3次元振動台実験を実施し、地表面加速度と地盤内の間隙水圧を測定します。そして、それらのデータから教師データとなるデータセットを作成し、機械学習に適用することで液状化程度を評価しています。(図3

図3 教師データ取得のための3次元振動台実験 注3)

評価する液状化程度の指標を過剰間隙水圧としているため、ANNの出力値である正解ラベルは、過剰間隙水圧により分類されます。過剰間隙水圧比を5段階に領域分けし、各領域を液状化程度(以下、Damage degree of liquefaction:DDL)で判定します(図4)。

図4 液状化度の評価指標 注3)

6.最後に、全国規模での防災対策へ

AIによる液状化程度の評価能力がどの程度あるのかを実地震記録でテストしています。1964年の新潟地震の川岸町の液状化被害発生地点、1995年兵庫県南部地震の神戸ポートアイランドの液状化被害発生地点など、AIで評価すると液状化程度は極めて高い精度で正解をたたき出しています。

地震国である日本において、住宅の基本的なインフラの中にGAINETを入れる仕組みですが、各住戸の地震対策のように見える本システムは、実は日本中の細かな民間拠点を結ぶ「地震計測ネットワーク」の構築でもあります。個別の住居に対する被災度の判定、避難指示や状況告知はもとより、発生した全国規模のデータの継続的なストックが可能となります。このシステムは今後の日本の地震対策に貢献しうる新たなビッグデータを生み出す民間インフラとなる可能性があります。全国区の住宅メーカーだからこそ担える新たな社会貢献の形にしていきます。


  • ※1 間隙水圧:地下水による地盤内の水圧(飽和土中の水圧)
  • ※2 過剰間隙水圧:地震時に大きな繰り返しせん断を受けるときに生じる静水圧を超える間隙水圧
  • ※3 有効応力:土の骨格構造のみに作用する応力

  • 注1) 東京都都市整備局市街地建築部「建物を液状化被害から守ろう。【液状化による建物被害に備えるための手引き(概要版)】」平成25年5月発行
  • 注2) 浦安市液状化対策技術検討調査委員会「平成23年度浦安市液状化対策技術検討調査報告書」
  • 注3) Kazama,Toyabe,Otsuka,Kamura,Nakamura,Sato,Matsushita「Development of liquefaction damage assessment system based only on seismic records」Tc301 TS NAPOLI 2022.