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効率的な住宅生産を実現する短時間接着技術

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木質構造部材で高い接合力を支える「接着接合」

木質系の住宅には、接着接合を積極的に利用した合板、集成材、単板積層材(LVL)、木質接着成形軸材料、木質断熱パネル、木質接着複合パネル等が構造用部材として使用されています。

ミサワホームでは独自に開発した業界最高水準の強度を誇る接着剤を使用し、図1に示しました木質接着複合パネル(以下パネル)という枠組材の両面に構造用合板を接着接合した部材を生産。このパネルを住宅の構造材として用いて建築しています。住宅はオーナー様の要望に基づき設計されるため、住宅毎に様々な形状、大きさのパネルを組み合わせなければ建築することができません。そのためミサワホームでは2万数千種類のパネルを準備しています。実際のところ1棟の住宅を建築するために、概ね200種類のパネル400枚が使われています。本レポートでは、このパネルを効率的に生産し、オーナー様に高付加価値、高品質な構造体をご提供するための接着接合技術のご紹介をします。

圧着にかかる「時間の問題」

木質系構造部材を生産するために使用されている一般的な接着剤には、レゾルシノール/ホルムアルデヒド系接着剤(RF)、フェノール/ホルムアルデヒド系接着剤(PF)、メラミン/ホルムアルデヒド系接着剤(MF)、メラミン/ ユリア/ ホルムアルデヒド系接着剤(MUF)といった熱硬化性のホルムアルデヒド系樹脂接着剤や、水性高分子/イソシアネート系接着剤(WPI)が主に使用されています。これらの接着剤は接着剤を塗布後、最低でも数十分の時間圧締する(動かないように固定する)ことで接着します。接着時間が比較的長くなってしまうことから、大掛かりな設備を用いて、同じものを繰り返し大量生産する方式に適していると言えます。

しかしながら一般的な接着剤を用いて200種類のパネル400枚を生産しようとすると、仮に10分の圧締は必要となるものとして10分×200回(同じパネルはまとめて圧着)の2000分(約33時間)もの時間がかかってしまうことになり、現実的ではありません。この「時間の問題」はパネルの種類を減らし、パネルを10枚単位で同時圧着することで解決できますが、同時圧着するためには同じパネル同士でなければならず(大きさや枠釘材の位置が異なると圧力が均等にかけられず圧締できない)、パネルの種類を限定せざるを得ありません。これでは、オーナー様の要望にお応えできるような自由度の高い設計を実現することができなくなってしまいます。

数十秒で接着する新規接着剤の開発

そこでミサワホームでは、パネル1枚を最短で数十秒で接着可能とする「新規ハネムーン型接着剤」を開発し、それに合わせた生産設備を使用することで、先に述べた問題の解決を図りました。

一般的なハネムーン型(接触反応型)接着剤との違い

ハネムーン型接着剤は接触反応型接着剤とも呼ばれ、2液の接着剤同士が接触することで反応が開始し、硬化する接着剤であり、その仕組みを図1に示しました。一般的な使い方としてはA剤とB剤を別々な面あるいは片面に重ねて塗布し、圧着時に両接着剤がミキシングされて反応が始まり、短時間で硬化させます。通常、第2世代アクリル系接着剤に代表されるアクリル系樹脂が使用されることが多いようです。しかしながら、接着時間 は数分までしか短縮できない状況でありました。そこでミサワホームでは図1右側の主剤と硬化促進剤を用い、数十秒で硬化する新規ハネムーン型接着剤を開発しました。

図1 ミサワホームで採用する新規ハネムーン型接着剤の仕組み

この新規ハネムーン型接着剤は主剤と硬化剤を事前に混合した接着剤と硬化促進剤が接触することで、接触界面から硬化促進剤が接着剤中に拡散し硬化(ゲル化)が開始する仕組みとしました。表1には開発した2種類のハネムーン型接着剤の構成を示します。

α-オレフィン無水マレイン酸系ではイミド化オレフィンマレイン酸樹脂とグリオキザール、水性高分子-イソシアネート系ではアセトアセチル化PVAとヒドラジド化合物が急速な反応を起こし初期硬化します。最終的には接着剤中の水分がさらに抜けることと、硬化剤が主剤と架橋反応することで最終強度に達するメカニズムとなっています。

※BCP(事業継続計画)の観点から原材料の大きく異なる2種類の接着剤を開発

表1 開発した新規ハネムーン型接着剤(2種類)の構成

新規ハネムーン型接着剤の3つの接着性能

❶初期接着力

初期接着力とは圧締終了直後の接着強度で、この強度が低いと木材の反りやねじれに対抗することができず、接着品質を確保することが難しくなります。これまでの検討より、80N/40mmの初期接着力があれば、良好な接着が可能であることはわかっており、このハネムーン型接着剤は20秒程度で必要強度を満足できることが分かりました。(図2

図2 圧締時間と初期強度

❷最終接着力

最終接着力とは養生後に接着剤が十分に硬化した状態における接合強度を指します。平成12建設省告示1446号には、木質接着複合パネルに使用する接着剤の基準として「JIS K-6806に規定する1種1号に適合する接着剤と同等以上に接着の性能を維持させることができるもの」と示されています。そこでJIS K-6806に示されているカバ材を用いた圧縮せん断試験を行い、常態圧縮せん断強さ及び煮沸繰り返し圧縮せん断強さを確認しました。ここでは結果のみになりますが、このJISの基準強度である常態圧縮せん断強さ981N/c㎡、煮沸繰り返し圧縮せん断強さ588N/c㎡以上であることがわかりました。

❸接着接合部の長期耐久性

接着接合部の耐久性については、決まった評価方法は世の中に存在しません。そこで、30年以上の実績がある「構造用集成材の評価方法」を参考に、接着接合部を4時間のあいだ沸騰水に浸漬後、20時間乾燥するという煮沸サイクル試験にて評価することとしました。新規ハネムーン型接着剤を用いて接着した木材の接着接合部を10回の煮沸サイクル試験に供した結果を図3に示します。
接着強度についてサイクルを繰り返すほど低下傾向にあり、10サイクル経過後、約25%低下しました。しかしながら木材の部分で破壊する割合がほぼ100%であることから、強度低下は木材そのものの劣化であることがわかりました。接着剤は木材同士を接着するためにありますので、木材同等以上の耐久性があればよいこととなります。したがって、接着耐久性は十分に確保されていることがわかりました。

図3 煮沸サイクル試験の結果

最後に

本レポートではミサワホームが開発した短時間接着が可能な「新規ハネムーン型接着剤」について紹介しました。他に類を見ない高性能構造用接着剤となっています。皆様の今後の業務におきまして、「接着時間の短縮を図りたい」とお考えの際には、本接着剤をご検討いただけると幸いです。


関連リンク:SAFETY[接着・接合]