1.開発背景
冷暖房の種類
冷暖房には大きく分けて、エアコンのような「空気式」と呼ばれる気流を発生させて空調するものと、「放射(輻射)式」という床暖房やパネルヒーターのように気流を発生させずに空調する2種類のタイプに分けられます。
家庭での冷暖房の種類
家庭での冷暖房はエアコンが多く使用されています。近年のエアコンは省エネで効率のいいものが増えてきており、イニシャルコストやランニングコストの面で強みがあります。しかしエアコンの気流を嫌う人は多く、健康面や快適面でまだまだ課題はたくさんあるというのが現状です。 そんな中で近年、暖房としては床暖房が広く普及するようになりました。床暖房は放射熱※1を利用するため、気流が発生しない、空気が乾燥しない、暖房面との距離が近く快適感を得られやすいといったメリットがあります。床暖房はエアコンと比べるとランニングコスト(光熱費)では劣りますが、それ以上に快適性のメリットが重要視されているのです。
一方で、冷房については結露のリスク等の理由から現状はエアコン以外の選択肢がないと言えますが、ミサワホームではこれまで「輻射パネルルーバー冷暖房」というアルミ製のルーバーの中に冷温水を流して空調する商品を販売しています。冷房時はとても冷たい水が流れるためパネル表面が結露しますが、これを適切に排水することで、除湿の効果も見込めます。しかし居住者からすると除湿効果があるとはいえ結露水への抵抗感があるということやメンテナンスの手間などがネックとなり導入事例は少ないのが現状です。
快適な温度には個人差がある
また、寝室ではエアコンの快適な設定温度が夫婦間などの個人ごとに異なることも問題となります。あるエアコンメーカーの調査では55%の割合でエアコンの設定温度が原因で喧嘩したことがあるという結果があります。さらには寝室での快適な温度が異なるということは、「睡眠の質」に大きく影響します。
開発の狙いどころ
今回開発した「壁放射冷暖房」はこういった様々な問題を解決すべく、「非結露」「個人ごとの温冷感に対応可能なパーソナルな空調」「睡眠の質の向上」といったものをコンセプトとして開発しています。
2.「壁放射冷暖房システム」のしくみ
層構成と材料構成
図1が壁放射冷暖房の断面図です。層構成を見るとわかるように、使用している材料は普通の木材や石膏ボードが主なのでイニシャルコストを低くすることができています。また、大工さんも慣れ親しんでいる材料なので、施工も難しくありません。
寝室のベッドヘッドボードとの組み合わせ
今回はベッドヘッドボードという、寝室のベッドに合わせた内装デザインとして設計され、パーソナルな照明器具を配置したり小物を置く棚を設けたりするインテリアと一体となっています。これは住宅の構造体とは干渉しないため、構造や耐火などの法律上の問題もありません。 そのベッドヘッドボードの裏面に冷温水配管を埋め込み、ヒートポンプ冷温水システムというエアコンの室外機のようなものと繋ぐことでベッドヘッドボードの表面温度を制御するしくみとなっています。
冷やしすぎないということ
とても簡単な言い方をすると、今回開発した壁放射冷暖房は、床暖房のパネルを壁に設置して、そこに結露しないくらいの「冷たすぎない水」を流して、ベッドで寝ている人に涼しさを提供するシステムです。
「冷たすぎない水」なので、部屋全体を冷やす能力は無いですが、寝室の頭元に設置して寝ている人をやんわり冷やすことができます。また、その結果として睡眠の質の向上が期待できるため、実際の被験者実験などによって効果を検証中です。
3.「壁放射冷暖房システム」の温熱効果確認
頭付近の温度が室温-2℃に
では実際に、夏の寝室という環境において、どのような効果があるのかということを、「人工気候室」という室温や湿度を自由にコントロールすることができる実験室で測定しました。
図2がその結果の一例です。夏の寝室の温度を想定した約28℃という室内環境で、壁放射冷暖房に約20℃の水を流しました。すると、壁放射冷暖房からは26℃の空気が寝ている人の頭付近に広がることが確認できました。一方でお腹付近や、足元には影響がほとんどないので、手足の冷えなどの原因となることもないことがわかります。実際に横になって体感してもらった人の感想としても、肯定的な意見が多く見られました。もっと涼しくしたいというような意見もありましたが、1日8時間寝ることを想定した時に、冷えすぎないということもとても重要となるため、この部分の知見については今後の検討事項のひとつです。
図2 室温約28℃時の流下冷気(熱画像)
パーソナルな利用にも適している
また、図3はダブルベッドに二人寝ている想定の実験結果です。壁放射冷暖房はベッドの幅の半分のみ運転しています。壁放射冷暖房が運転している側は先ほどの結果と同様で、頭付近が冷えていることがわかります。しかし、壁放射冷暖房が運転していない側では大きな変化は見られませんでした。このことから、パーソナルな使い方を想定した時にそれぞれ個人が快適な温度で調整することが可能ということがわかります。
図3 正面からの熱画像と上空からの熱画像
4.まとめと今後の展望
ここまで述べさせていただいたように、壁放射冷暖房によって得られる温熱環境がどういうものかというところまでは実測を通して把握することができています。しかし、実際に一晩寝た場合の「温冷感」や「睡眠の質」がどうなるのかは明らかになっていないので、今後新たな実測を通して検証予定としています。また、結露防止のために、更なる湿度コントロールの検討は必要と考えていますのでこちらも今後の課題として取り組んでいます。
これらをクリアにしていき、近い将来に商品として展開していきたいと思います。
- ※1 :放射熱とは、電磁波による熱のことで、主に太陽やストーブなどから放射され、物体や空気を介することなく移動する熱のことです。