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家事② 理解不足がストレスを生む ~異なる常識の相互理解とチームビルディング~

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家事②理解不足がストレスを生む~異なる常識の相互理解とチームビルディング~

「常識」が邪魔をする相互理解

家事レポート①(エムレポvol.84)で述べたように、家事に起因するストレスの中には一緒に生活する家族の相互理解不足があります。この十年で日本社会の労働環境は大きく変化しています。そのため、個人を取り巻く環境が変わり、今までの「常識」は通用しなくなり、時代や環境に合わせた新たな家庭生活の「常識」が必要になります。このような状況ではひずみが起きやすく、異なる時代、異なる組織や社会で培われた意識の差、すなわち各々の「常識」に大きな差が出ます。実はその「常識」が大きな障害の一つになるのです。それは各個人が持つ「常識」が正解だと信じているからです。しかし、実際は違います。「常識」は時代や環境が変わると、正解ではなくなってしまうものだからです。

歴史的変遷

それでは、相互理解不足の背景となる「常識」を形成してきた時代や環境はどのように変化してきたのでしょうか。特に男性側の「常識」に大きな差が見られますが、様々な立場の人の「常識」がどのようなものか、歴史を振り返り紐解いてみましょう。
現在の「家事」という言葉の意味が西洋で明確になってきたのは産業革命以降の近代家族です。工業化により働き方が労働集約型に移行したため、生産効率を上げるために街が集約されて生活に必要なインフラが徐々に整備され都市が形成されました。そこで、水や火などの生活に必要な資源やエネルギーの確保は、インフラ整備により必要とされる労力が大きく削減されました。R.S.コーワンは著書で「近代化によって必要でなくなった労働は、それまでは女でなく男と子どもたちがやっていた仕事であった。」と指摘しています。すなわち、主に男性が外で働き、女性は家を守るというスタイルが確立されました。一方日本では、戦後の復興から目まぐるしく新たな生活の「常識」が生まれ、町や生活、暮らしが激変します。その中で、テクノロジーの進化により、生活を快適、便利にするものが手に入るようになります。豊かで清潔・健康な生活が実現し、生活品質が向上し「常識」が変化します。1950年代は三種の神器と言われたテレビ(白黒)、洗濯機、冷蔵庫が生活必需品になり、1960年代には新・三種の神器としてカラーテレビ、カー、クーラーなどが一気に普及します。これらの普及は、より良い生活を手に入れたいというニーズであり、マズローの欲求5段階説でいう生理的欲求や安全欲求、そしてステイタスという社会的欲求の段階だと考えられます。
制度上では、1984年の男女雇用均等法の導入、1993年、家庭科の男女共修(中学校の技術・家庭科の男女共修)という改革を境に、社会における男女の役割意識に大きな変化が生まれます。
ところが、戦後一貫してモノを増やして豊かになる価値観が変化します。先進国に追いついた日本はバブル崩壊後から多様な価値観、ライフスタイルが台頭し、多様化した価値観の中で社会が構成されています。既に充分な生活品質を手にしている状況から、それぞれのライフスタイルを通じ自己実現欲求の段階に入ったとも言えます。
この様に、日本の戦後わずかな間でも人々の役割意識や生活品質の「常識」は大きく変わっています。つまり、異なる社会環境で育てば、相手の「常識」が理解できず、その乖離がストレスにもつながると考えられるのです。

家事のプロセス

家事は前述の通り多くの女性が社会的な性別役割として担った時代がある事から、男性は家事自体をほとんど経験してない世代もいます。生きていくことに家事は必要不可欠ですが、現在の超高齢社会では、男性の独居高齢者が家事をしたことがないため生活困難なっているという事例も見られるようになりました。こうした事からも、家事はどの様なプロセス(工程、種類)があるのか、知ることも大切です。日常の家事をこなすには多くの工程があり、そのプロセスや種類は一定ではなく、状況に合わせて順序が変わる場合もあります。例えば三大家事(炊事・洗濯・家事)の一つ、洗濯のプロセスを具体的に見てみましょう。 一般的に洗濯の工程は、「1.洗濯物を集める」、「2.洗濯機を回す準備をする(洗濯物を洗濯機に入れる)」、「3.洗濯機を回す」、「4.洗濯物を干す」、「5.洗ったものをたたむ」、「6.しまう」というように幾つかの段階を踏みます。ただ、一見単純に見えるこれらの段階ですが、実際に毎日の生活ではこれらに細かい作業や状況判断するフローが必要になってきます。 例えば、「1.洗濯物を集める」の段階では、「家の中の洗濯物を確認する、集める」「仕分ける(洗濯機に入れたものを回す前に変更する)」「洗濯するか判断(頻度の高い・低いを判断する)」「洗濯する量の判断(次の工程の干し場などが確保できるか)」というような状況把握や知識、判断などが工程に存在します。ミサワホーム総合研究所では、前述の洗濯の6つの段階をそれぞれ、種類を整理したところ、54種類の工程が確認できました。つまり、洗濯一つとっても段階別に様々な詳細工程があり、それを考慮しないと上手くいかないことがわかります。

家事に対する評価―評価の乖離はなぜおきるか

このように家事を遂行するプロセスには、家事に関連する「知識」、家事を遂行する「技術力」、環境や状況を「把握する力」や状況を「判断する力」など少なくとも4つの能力(図1)が必要になります。

家事に必要な能力
(図1)家事に必要な能力

従って、家事を遂行し評価するためには、プロセス全体を状況に合わせてマネジメントし、コンピテンシーの視点で評価をする必要があります。しかし、現在はそれらのプロセスの実行状況や実行能力は目に見えないため、それについて工夫や努力していても、周囲に理解や感謝されないと感じてしまうのです。
家事を一部分(お手伝い等)でしか担ったことがない人は、工程毎の前後の関係性がわからないため、家事を断片的な作業でしか理解できず、簡単で単純な作業だと思ってしまうのです。そこに家事を主体的に担う人が評価されないと感じるストレスがあります。

ストレス解消へ―相互理解とチームビルディング

これまで述べたような様々な価値観やプロセスは、「経験」し「学び」、「理解する」ことでストレス解消の一歩を踏み出せます。ただ、本当に解消するためには、一緒に生活を共にするパートナーや家族が、それに理解を示しつつ、自分のパートナー、家族との価値観・お互いの「常識」に折り合いをつけるという「基準摺合せ」が重要になってきます。
生活は一人ではできないものです。現代社会で、一人で生活できていると思っていることの多くは、都市のサービスを担っている企業や人、そして社会制度で成り立っています。日本は生活するためのモノやサービスが行き届いており、そういった環境が当たり前と思ってしまうかもしれませんが、実は危ういものです。日本の今後、高齢化率のさらなる上昇を考えると、高齢に伴う社会的弱者になってしまったり、思わぬ事故で障害を持ったり、災害に見舞われたり、ちょっとしたことで一人だけで生き抜くことは難しくなります。そうなる前に、様々な人達と上手くやっていけるようなチームビルディングの力を身に付けていく必要があります。
「常識」は時代や環境によって違います。変化の激しい時代には自分の「常識」を基準にするのではなく常に他者に対する理解を持つことが肝要です。
そのためには、常識、意識、プロセスの見える化と、それに伴う対話での協力体制を構築するツールやそれを使いこなす人のスキルが求められてくるでしょう。

プロセスの見える化事例(Experience Mapの試行)
(図2)プロセスの見える化事例(Experience Mapの試行)

ミサワホーム総合研究所では、こうした理解不足を解消できるような支援ツールを研究開発(図2)しています。これらの研究を通して、複雑な家事とその価値の見える化をサポートし、より多くの人々のトレス解消に向けたソリューションを構築していきます。




ルース・シュウォーツ・コーワン(2010)
『お母さんは忙しくなるばかり
~家事労働とテクノロジーの社会史~』
法政大学出版局