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学びの環境① 住まいの学習空間の変化 〜勉強部屋からホームコモンズへ〜

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学びの環境① 住まいの学習空間の変化 〜勉強部屋からホームコモンズへ〜

はじめに

子ども部屋に関しては様々な意見がありますが、一昔前までは勉強する場所で、勉強部屋とも呼ばれた時期がありました。現在では、子ども部屋だけでなく、リビングやダイニングでも勉強できる環境を整えている家庭が増えており、一部ではリビング学習とも呼ばれ、ちょっとしたブームになっています。
ところが、リビングやダイニングは学習する空間ではありません。例えば、ダイニングテーブルに教科書やノート、プリントなどを広げ、宿題をやる気になっても、食事の用意のために片付けなさいと言って子どものやる気を削いでしまう状況が考えられます。そうなるとストレスが溜まり、子どもは学ぶ事に興味や気力を失ってしまうかもしれません。
果たしてリビングやダイニングは家庭内の「学び」を得るのに最適な空間なのでしょうか。
ミサワホームでは、これらの課題意識から住まいの学ぶ環境づくりに指針が必要だと感じ、2012年に、業界に先駆けて、旧来の勉強する場所、子ども部屋の考え方を整理し、住宅内の学ぶ場所の設計指針をつくりました。それが「ホームコモンズ設計」です。

社会で求められる能力の変化

2011年にアメリカのキャシー・デビッドソンという研究者が「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業につくだろう」と予測したことが世界の話題になりました。それは、未来の仕事の65%が今存在しないことと同時に、今学んでいる知識が使えなくなるかもしれないということを意味するものでした。もちろん、これは予測でしかないのですが、すでに世界を席巻している大企業はコミュニティや体験価値のプラットフォームビジネスをしているなど、今までにないビジネスモデルが世界の主力となり、既存のモノづくり企業や販売企業は後塵を拝しています。現在、企業に求められる人材は過去と変わってきています。知識を持っていることが重要なのではなく、様々な人や物事に対し対話をしながら、想像力を活用しチャレンジし、新たなものを生み出す能力が求められると言われています。
インターネットが普及し、通信手段が多くの人の手に入り、誰でもいつでも自由に調べることができるようになりました。つまり知っている知識の量よりも、使いこなしていくことが重要になってきたのです。

家庭内の学びとは~対話から興味を引き出す~

ところで、家庭内で必要な「学び」とはなにか。これが私たち住宅業界の悩みでした。
一般的に良い学習環境というと「学力が向上して良い大学に入れるような環境」と認識されます。「学力」は知識などを暗記した結果を試す試験などが代表例です。これは前述のような企業に求められる人材に対しての子どもの能力開発にはなりませんし、家庭の場で学ばせるというよりは学校や塾での時間の方が大切かもしれません。では、家族の家庭内での「学び」は何が必要なのでしょうか。
今求められる新たな知識習得や新しいアイデアを生み出す人になるためには、生涯において学び、持続的成長を可能にする意欲とそれをつちかう環境が必要です。そして、学び取ろうとする意欲は、学びたい、知りたい、という興味から生まれます。つまり、未知の価値に遭遇し気づきが得られるような経験や環境が必要で、住まいにおいては様々価値観を持つ人が「対話」をしやすくする必要があります。

ホームコモンズ設計という考え方

子どもの成長段階において「学び」のための「対話」は、時期によって変わることからミサワホームでは2011年に成長段階に合わせた学ぶ環境を提供できるように東京大学及びEduce Technologiesに協力を仰ぎ、ピアジェ等の発達心理学の成長段階を参考に大人になるまでの環境の整理を行い発表しま した。(表1ホームコモンズ設計の4つのステップ)

ホームコモンズ設計の4つのステップ〈子どもの成長段階に合わせた最適な場所を用意することで子どもの能力を十二分に引き出す〉
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(表1)ホームコモンズ設計の4つのステップ
〈子どもの成長段階に合わせた最適な場所を用意することで子どもの能力を十二分に引き出す〉

新たな気づきを得て、興味を引き出し、「学び」を得るためには、自分の知らない価値観などに出会うような対話が重要なことから、子ども部屋から「学び」の要素を抜き出すことが重要だと位置づけました。つまり、子どもの自立のためのプライバシースペース、寝る場所と学ぶ場所は別にするという「寝学分離」という考え方が生まれました。
また、家族それぞれの居場所をデザインしないと、家庭内で対話が生まれにくいことから、成長に合わせた家族の居場所ができるような内容にしています。
さらに、対話の種類は成長に合わせて変わっていきます。乳児、幼児ではスキンシップという対話が中心となりますし、小学生では主に会話のキャッチボールを楽しむような対話が中心です。中学生以上になると、それに加えて物を通した対話も重要になりますが、これには個人差もあります。
それでは、それぞれのステップを解説していきましょう。
■1ステップ(0歳~1歳 乳児期)
親子の信頼関係を確立する時期で、様々な「経験から五感を育む時期」です。感覚的運動が始まる時期で、これらを充分に経験させ成長させるためには、安全に見守られる環境が必要で、積極的にスキンシップや五感を刺激するような経験が重要です。そのため、家族が集まりやすく、どこからでも見えやすい安全な場所をつくるということで、リビングなどの見通し良い場所に設定し、『プレイサイト』と呼んでいます。
■2ステップ(2歳~6歳 幼児期)
人格の基盤が形成される時期で「体験から想像と語る力を育む時期」です。言葉の習得から、日常生活や遊びの中で、親との対話を重ねることにより、次第に社会化されていきます。また、生活の中で様々なモノのイメージ力をつけるために調理の加工過程を見せること等で様々な想像力を育みます。キッチンの手元が見える場所に『トークサイト』を設けて、様々な体験とそれによる対話の機会を創出すると良いでしょう。
■3ステップ(7歳~12歳 児童期)
好きなことを見つけ、熱中する時期で、「興味から意欲を育む時期」です。子どものアイデンティティは、親が子どものおこなっていることにフィードバックをかけ、そのやり取りを通じて確立されます。様々なことができるようになり、できたことを認めてあげて承認の欲求を満たしてあげましょう。親がキッチンから覗き込めるような距離感に子どもの視線を遮らないようなデスク環境『ホームワークコーナー』があると、ちょっとした疑問や、できたことを親に報告ができるので良いでしょう。
■4ステップ(13歳~20歳以上 青年期以降)
興味関心を形にしていく時期で、「対話から思考を育む時期」です。この時期以降は家族の生活時間がすれ違う時期です。時間的にすれ違っていても、物を通して対話ができるようになります。家族で共有できるライブラリーがあれば言葉で伝えなくてもライブラリーにおいてある本や物で変化を感じることができます。また、オフィス同様に、家族それぞれの専用の机と椅子があると、面と向かって用事がなくても一緒にいることに違和感を感じません。そして、共同で何かをできるようなテーブルがあれば、一緒に共創する経験ができます。そのような空間を『ホームコモンズ』として設けることによって、年齢に関係なく家族の対話が続けられるのではないでしょうか。

子育てを担う住まいの環境の今後

これまでは「夫婦と子ども2人」からなる世帯を標準家族と呼び、戦後の日本経済を担う中心的存在でしたが、国立社会保障・人口問題研究所の推計(2018年度)では、2040年には約4割が単身世帯になるとされています。今後は家族形態の多様化が加速します。
ただ子育ては、人類の存続とって必要不可欠なことです。子どもを養い、一人前にするような住まいの環境は「住まいは巣まい」と言うように今後もしっかり整えていかなければならないとミサワホーム総合研究所では考えています。これから先は家族という概念が大きく変わっていくかもしれません。現在は核家族が中心ですが、シェアハウスのようにある共通の価値観から一緒に暮らしていくような事になっていくかもしれません。いずれにせよ、子どもだけではなく、家で暮らす家族という構成員が互いに成長するためには、様々な対話による学びが重要になってくるでしょう。
ホームコモンズの家(ハイブリッド自由空間Edu)は2012年に発売されましたが、ミサワホーム総合研究所では、その後も生活者行動観察調査(エスノメソドロジー)を通して家庭内の対話の価値の発掘や学び効果について研究を続けています。今後も子どもたちの未来のために環境整備の研究を続け、住まいを価値あるものにしていきます。 (続く)