ミサワバウハウスコレクションとバウハウス100周年

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ミサワバウハウスコレクションの背景

バウハウスは、1919年にドイツに14年間だけ存在した小さな造形学校です。また教育機関であると同時に、教師と学生がともに試行錯誤し、まったく新しいデザインをゼロから生み出し、世に出す実験的なデザイナー集団でもありました。建築を最終目標とし、生活に関わるあらゆるものを対象に、人々のくらしをデザインで変えていくことを目指して、家具、照明器具、金属器や陶器、テキスタイル、ポスターや広告、写真、彫刻、壁紙や玩具、舞台とさまざまな分野の作品が学内の工房で生まれました。
バウハウスのデザインといえば真っ先に椅子をイメージする人も多いのではないでしょうか。1925年にマルセル・ブロイヤーがデザインした「ワシリーチェア」は、室内用の椅子に初めてスチールパイプを用いた画期的なデザインで「素材の革命」といわれ、モダンデザインを代表する椅子です。また彼が1928年にデザインした椅子は、極限まで単純化されたシンプルな構造を持ち、世界で最もコピーされている椅子と言われています。そこには、形態の新しさだけではなく、20世紀という新しい時代にどう暮らすかという提案が込められていました。このような思想は、例えば、学長ヴァルター・グロピウスが発表した住宅案「大きな積み木箱」にも見られます。6つのユニットの組み合わせ次第で夫婦2人から大家族、果てはオフィス付き住宅まで作れてしまうというこの案は、残念ながら実現しなかったものの、当時の欧州の住宅が、共通して使えるような規格サイズの部材すら使っていなかったことを考えると、全く新しい提案だったことがわかるでしょう。都市が急激に成長して、労働者の住む住宅建設が追いつかなかったあの時代に、グロピウスは効率よく建設でき快適に生活できる標準化された建築のシステム開発を目指したのです。当時グロピウスは、この住宅の実現は、今は不可能でも将来ユニットを工場で生産し、現場に運んで積み上げるだけで家が建つようになるだろう」と言いました。これはまさに“プレファブリケーション住宅”です。グロピウスが夢みた工法を、現在日本の住宅メーカーが受け継ぎ、洗練させ普及させているという事実に、私たちはバウハウスとの深い結びつきを感じています。そして、今なお高く評価されている極めてシンプルなデザインは、装飾で偽らない誠実なデザイン、人間が主役のデザインを目指しているミサワホームのデザイン思想に、いつも大きな力と示唆を与えてくれました。そこでミサワホームは1989年からバウハウス作品を収集し、貴重な学びの宝庫をミサワホーム総合研究所が管理・運営することで、一般に公開していくことになりました。日本で唯一のバウハウス専門美術館「ミサワバウハウスコレクション」の誕生です。 2019年はバウハウスの1919年開校からちょうど100年。ミサワホームがコレクションを始めて30年でもあります。バウハウスを好む人、影響を受けた人、またこれから学びたい人にとって大きな節目の年です。

ミサワバウハウスコレクション

ミサワバウハウスコレクションは、杉並区高井戸のミサワホーム総合研究所の1FとB1Fにあります。1996年4月の開館から20余年、小さいながらもバウハウスに関する情報が国内外から集まる拠点となりました。所蔵する作品の数およそ1,500点、資料は1,200点、近現代の芸術に関する蔵書に至っては13,000点にも及びます。この豊富な作品・資料を最大限に活用すべく、調査・研究と併行し、毎回異なるテーマで継続的に企画展を開催してきました。
所蔵コレクションは、ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレーをはじめとするバウハウスの教師、学生たちの絵画・版画、写真のほか、基礎教育での学生の習作、工房で生まれた陶器、金属器、家具、照明器具などのプロトタイプや工場生産品、テキスタイルのデザイン画や織見本、壁紙、ポスター、書籍、舞台デザイン、建築図面など多岐にわたります。とりわけ学生たちの習作が多いのがコレクションの特徴であり、大きな財産です。なぜならバウハウスの影響、特にバウハウスの造形教育改革が日本に与えた影響は非常に大きいと言われながら、バウハウスの教師たちが実際に行った授業の詳細は美術教師にもあまり知られていないからです。ミサワホーム総合研究所では、作品群を丹念に研究することで、バウハウスという学校でどのような授業がおこなわれていたかを少しずつ明らかにしています。「ゼロから始める」が口ぐせだったグロピウス学長は、ものづくりのみならず既成概念や慣習、伝統を捨て、ゼロから共通の土台を立ち上げ、新しい時代のためのデザインを起こすことを求めました。それは教師にも求められたのです。バウハウスの教師たちは一人ひとりが従来の教育方法を捨て、新しい造形教育を模索しました。ここで生まれた様々なアイデアは、今も魅力を失っていません。バウハウスの現代における価値は、デザインされたものの最終形ではなく、そのプロセスと思想にあります。私たちは展覧会において、あるいはギャラリートークにおいて、作品をただ紹介するだけでなく、彼らの思想をも含めて紹介したい、と強く思い続けています。ミサワバウハウスコレクションの活動は、貴重な作品を材料に、研究によって少しずつ築かれていく建造物のようなものです。その積み重ねられてきた知見が開校100年目に日本で開催されるイベントに深く貢献することになったのです。

ヨースト・シュミット1923年のバウハウス展のポスター Joost Schmidt Poster from the Bauhaus Exhibition in 1923
ヨースト・シュミット 1923年のバウハウス展のポスター
Joost Schmidt Poster from the Bauhaus Exhibition in 1923


日本で開催される「バウハウス100ジャパン」

日本はヴァイマールでのバウハウス創設以来、この類まれなる造形学校に注目し、学び、研究しつづけてきました。そして2019年に創設100周年を迎えます。この記念すべき年を日本でも祝い、再考の契機とするためにバウハウス研究者が立ち上がり「バウハウス100周年委員会」が発足しました。「バウハウス100周年委員会」の運営事務局にはミサワバウハウスコレクションも協力しています。2019年をメイン年とし2020年まで、日本ならではの様々な活動を「バウハウス100ジャパン」の名のもとで行っており、次の3つの活動を柱にしています。

  1. I.  巡回展  2019年を中心とした大規模な記念企画展「開校100年 きたれ バウハウス」の開催
    新潟市美術館、西宮市大谷記念美術館、高松市美術館、静岡県立美術館、東京ステーションギャラリーの5美術館で順次開催
  2. II. 星座   バウハウスに関連する様々な展覧会・セミナー・ワークショップ・出版等を統括し紹介する
  3. III. 研究   日本におけるバウハウス研究を総括するとともに今後の研究の礎をつくる
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    2. I.巡回展では、バウハウスの授業を実際に体験する要素を取り入れ、数々のデザインが生まれる土台となった基礎教育をメイン展示とするほか、「色とかたち」「アートとテクノロジー(1923)」「アートとメディア」「バウハウスの4人(日本人留学生の活動)」といったさまざまなテーマでバウハウスの多彩な側面に迫ります。特に、日本人留学生については、4人全員の活動が紹介される初めての機会です。

    3. II.星座は、バウハウスに関わるさまざまなイベントを日本地図上に煌めく星に見立て、その星をつなぐことを星座に例えています。バウハウスは多くの領域にまたがり、強い個性を持つユニークな人々が集まり、実験を重ね、変化していく学校でした。1つの展覧会では伝えきれないこの学校やメンバーの様々な活動や思想を、異なるテーマの展覧会やシンポジウム、講演会、ワークショップ、再現授業、音楽会、祭等々の多様な催しで紹介します。会場に「バウハウス・パスポート」とスタンプを用意し、星を辿って、バウハウスを知る旅をするという企画です。

    4. III. 研究には、ミサワホーム総合研究所も参加しています。その第一歩として2018年7月開催の日本ドイツ学会のフォーラム「バウハウス100年、その<総合>の理念を巡って」において、『バウハウス教育・変遷の中にあるもの』を報告し、高く評価されました。
    5. まとめ

      モダンデザインの源流として私たちの生活に浸透しているバウハウスは、その思想と活動を通じて、私たちが21世紀の日々をどのように暮らしていくかという問いへのさまざまなヒントを与えてくれています。100周年を祝うこのプロジェクトは、今後も様々な「バウハウスの星」イベントを生み出します。もちろんミサワバウハウスコレクションも参加します。星をつないで自分だけのバウハウスの星座をつくってください。情報は公式ウェブサイトを中心に、本国ドイツのbauhaus100とも連携をとりながら世界の情報も紹介していきます。