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テレワーク普及の歩みと住環境の課題

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1.コロナ禍で仕事環境として注目され始めた住まい

2020年4月、新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言で、多くの企業が在宅勤務を推奨しました。混乱が起こりつつも、未経験の人も含め、多くの人々がテレワークで業務継続できました。その成功は、近年の情報技術の進化と、日本の抱える課題を解決する手法として国が多面的に推し進めてきたことによるものです。本稿では、一進一退を繰り返した日本でのテレワーク普及の歩みと、その後、広く知られるようになった住まいの仕事環境の課題について述べたいと思います。

2.働く環境や意識の変化

<情報技術の進化>

場所や時間を選んで仕事ができるテレワーク。実現する鍵になったのが、1990年以降の情報技術の進化です。1990年代、それまで普及していたワープロ専用機から、PCがその役目を代わるようになってきました。そこで大きな役目を果たした「Windows95」は、直感的な操作性と使いやすさが受け、家庭にも普及するきっかけとなりました。また、2000年代になるとノートPCが小型・軽量化し、PCの主流となり、2010年頃からはタブレットが普及しました。この進化により、場所を問わず情報端末を扱えるようになってきました。

一方、通信分野に目を向けてみると、「Windows95」が発売された同年にインターネットが商用化されました。それは経済や社会に大きな変革をもたらし「IT革命」と呼ばれるほどになったのです。生活者や企業は、世界中の情報を簡単かつ低コストで入手できるようになりました。その後、各社が無線LANへの対応を始め、オフィスや家庭内に浸透した後、カフェやホテル、列車内などの公共スペースで利用できるようになりました。この頃から徐々にノートPCを持ち歩き、外で仕事が出来るようになってきました。

通信分野では、携帯電話の移動通信技術の発展もありました。1980年代以降、音声サービスから、メールやインターネット接続、音楽・映像配信が可能になり、2012年には通信の高速化が進むことでスマートフォンが普及しました。それに伴い、携帯電話を中継したインターネット接続であるテザリング機能が生まれ、仕事場所の選択肢が広がりました。

<日本の課題解決のための施策>

近年、日本では長らく労働力人口の減少が問題視され、働き方改革が進められてきました。その手段の一つであるテレワークは、複数の省庁が管轄となり推進し続けていました。しかしコロナショック前は、企業やワーカーの意識変革はなかなか進まず、日常的に使われている方が少ない状況でした。

まず注目されたのが、働く女性の問題です。出産や育児によって30代を中心に働く女性が減少する「M字カーブ現象」は、日本の特徴的な問題でした。2016年に女性活躍推進法が施行され、企業の間では、女性が働きやすくするための環境作りとしてテレワークを導入する例が出てきました。ただし、福利厚生の意味合いで制度を取り入れている例が多く、限定した社員が利用することへの不公平感などにより、うまく活用されない状況がありました。

その後、2018年から働き方改革関連法が成立され、女性に限らず幅広いワーカーを対象に、長時間労働の解消や、雇用形態による格差の是正、高齢者の就労促進など様々な議論がされるようになりました。多くの企業で推進チームが立ち上がり、テレワークは注目され始めました。

その最中、2020年の東京五輪開催が決定。国と東京都は2017年から東京オリンピック・パラリンピックの期間を「テレワーク・デイズ」とし、参画企業一斉のテレワーク実施を呼びかけました。これは、2012年のロンドン大会時での成功例に倣ったもので、大会中の混雑緩和だけでなく、その後のテレワークの普及が真の狙いでした。これによりテレワークを試した企業が増えたものの、限定的な期間で、慣れないまま終了し、不便さが際立って認識されてしまった事例も散見されました。

<自然災害対策と事業継続>

近年深刻化する自然災害。歴史的な災害を経験するごとに”事業継続”の課題が浮かび上がり、技術進化の歩みと共にテレワークが注目されてきました。

2011年の東日本大震災では、東日本を中心に停電や交通混雑が起こり、一定期間、事業停止した企業が出たことで、働く環境を見直すきっかけになりました。「BCP(事業継続性計画)」に取り組む企業が増え、特にデータバックアップへの関心が高まったことで、クラウドサービスの導入が進みました。このことは、その後のテレワークの普及に大きく貢献しました。

2019年には、関東を通過した大型の台風15号の影響による交通混雑が問題になりました。各交通機関は朝の運行を見送ったものの、その日中に運行再開したことで、出社する人たちが駅に溢れかえりました。働き方改革が進んでいたにもかかわらず、テレワークを選ばず「いかなる時も出社すべき」というワーカーや企業の意識が露呈した結果になりました。

その一年後、冒頭で述べた新型コロナウィルスの影響で、多くのワーカーが長期間、在宅勤務を余儀なくされ、働き方を根本から見直すきっかけになりました。また、テレワークは新型コロナウィルス以外でもインフルエンザでの解熱後の出勤停止期間の働き方の選択肢としても考えられるようになってきました。

3.住まいに集中するための環境を

多くの方々が自宅での仕事を経験するようになって、注目されたのが仕事環境としての住まいの課題です。2013年、弊研究所では、在宅勤務制度を導入している外資系企業を対象に、住環境整備についてのアンケート調査を行いました。その結果、約9割が仕事と家事・育児の両立において、居住空間を整備することに重要性を感じていました。また、約9割は「家族への配慮」を、約8割は「モードチェンジしやすい工夫」を重視していました。これらの課題は、テレワーク制度が普及していなかった当時、ほとんど認識されていませんでした。特に、制度が無い中で、勤務先でクラウド環境やタブレット端末を使って隙間時間に自宅で仕事をしていた「隠れテレワーカー」の方々にとって、常態的な在宅型テレワークの課題は気づきにくいものでした。

このテーマについて、ミサワホームは、様々な境遇で働くことを諦めていた人たちのために、2013年にテレワークのための個室「ミニラボ」を提案しました。住まいならではの刺激に注目し、集中しやすくするため、その当時は珍しい、仕事専用のデスクを配備した2.5畳の個室を計画しました。また、セキュリティに配慮してドアは鍵付きにし、個室内に仕事道具が管理できる収納も計画しました。更に、当時はWeb会議システムの映り込みに困っていたワーカーの声より、背面に本棚を計画しました。逆光で顔が暗くなってしまう問題にも着目し、窓は背面に配置せず、適切な照明計画を行いました。

リビング・ダイニングに併設した執務空間「ミニラボ」

ワーカーの執務環境を整備する一方で、同居する家族への配慮も重要です。「ミニラボ」ではリビング・ダイニングに併設することで、必要に応じて、家族の様子を確認できるようにしました。これは子育てと仕事の両立で生じる葛藤を少しでも解消できるよう、今まで諦めていた「おかえりなさい」が言える生活が実現できる間取りにするためです。

必要に応じて、家族の様子を確認できる

4.“集中”以外が必要な仕事への対応

提案当時、テレワークの推進案は、情報システムや制度でのアプローチがほとんどでした。そんな中、住宅設計の視点による提案が評価され、2013年に「テレワーク推進賞」で奨励賞をいただきました。そして年月を経て、コロナショックにより「ミニラボ」が再び注目を集めることになったのです。では、これから長時間・長期間、自宅でテレワークをする状況が当たり前になっていった時、当時提案していた「集中しやすい環境」だけが、仕事しやすい環境なのでしょうか。一人が行う仕事には、多様な種類の仕事が存在します。特に、今後は作業ではなく、より創造的な仕事が求められるようになると言われています。そのための環境作りも視野に入れなくてはなりません。

今後は、自然災害が激甚化し、数も増えていると言われています。更に、地球温暖化との関連が示唆されている感染症は、日本での発生の可能性さえ危惧されています。働き方を長期的なスパンで捉え、改めて仕事内容と適した環境について、見つめ直してみてはいかがでしょうか。