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ミサワホーム総合研究所が考える、これからの住まいのウェルネス     

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はじめに

厚生労働省1)によれば、日本人の平均寿命は女性で87.32歳、男性で81.25歳(2018年時点)であり、年々延び続けています。また平均寿命とは別に、近年“健康寿命”という言葉もよく使用されるようになってきています。“健康寿命”とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」2)と定義されています。日本人の平均寿命が年々延びていく中、健康日本213)により、平均寿命と健康寿命の差を縮小し、“健康寿命”を延伸させることが掲げられています。

「健康」とは?

健康寿命の延伸が叫ばれる一方で、「健康」とはどのような状態をさすのでしょうか。現在当たり前のように使用している「健康」という言葉は、明治時代での西洋医学の導入と共に新たに作られ、広く使用されるようになったといわれています4)。例えば江戸時代の儒学者・貝原益軒が著した「養生訓」5)の原文を見ると、健康という語は使用されておらず、「健やか」「丈夫」という言葉が多く目に入ってきます。「健やか」「丈夫」であるかどうかは、感覚的・主観的な判断で決められるものであり、西洋医学での客観的な判断に基づくものと区別するために、新たに「健康」という言葉が求められた背景があるようです。なお、WHO世界保健機関憲章6)では、「健康」とは身体的かつ精神的・社会的にも良好な状態であることをいい、単に疾病がないこと、病弱ではないことを意味するものではないと定義されています。明治期以前の心身のあり方に対する考え方、明治以降に導入された西洋医学の考え方、現在までを振り返り、改めて「健康」は多義であることがわかります。そして健康寿命とは、客観的に病気の有無だけでなく、感覚的・主観的な判断の影響を受けることが指摘されます。

ミサワホームにおける「健康住宅」の歴史

では、ミサワホームが手掛けてきた住宅の中で、住まいと「健康」の関係はどのように語られてきたのでしょうか。現存するミサワホームのカタログ資料を基に調査した結果、1967年創立から1970年代にかけては、人間工学に基づき、家事負担の軽減や家庭内事故を防ぐ設計(写真1)、明るさや日当たりがよいことの表現「健康的な雰囲気」を語る範囲にとどまっていました。
安全設計階段(ミサワホームOⅡ型、1979年)
(写真1)安全設計階段(ミサワホームOⅡ型、1979年)

「健康」が商品コンセプトの一部に取り扱われ始めたのは、1980年頃です。例えばG型(木質系、1979年)では、21世紀ライフを実現する8つの住宅機能の一つに、「健康機能」を挙げています。ここでの「健康機能」とは、「住む人の健康を増進し、肉体と精神の活力を高めるための設備と機能」であり、トリム室(健康機器等で汗を流す場所)付きの「豪華な浴室・洗面所(ともに超音波発泡発送装置付)」やセントラル換気装置、セントラル冷暖房、フロアーヒーティング(床暖房)が提案されており、住宅設備・建材の機能説明の中で「健康」が語られるようになったことがわかります。

健康設計(S型NEW、1982年)
(写真2)健康設計(S型NEW、1982年)

ほかにも予防医学の最新の成果を生かした「予防医学設計」(OⅢ、1982年、写真2)では、脳卒中予防「洗面所暖房」「暖房便座」、ぜんそくなどの呼吸器系疾患予防に「セントラルクリーナー」等が提案されています。ザ・センチュリーA6(1986年)では、“21世紀の住宅は「医・職・住」”をコンセプトに、「人生80年というロングライフを充実して送るためには家庭での健康管理、健康づくりが最重要テーマ」、「医のスペース」には、トイレに座るだけでその日の体調データの得られる「健康診断トイレ」、ホームドクターヘのホットラインの「ドクターライン」、温湿度やほこりなど空気環境に関するすべてを制御する「VAPシステム」など、計24の提案がなされています。
現在の住まいに求める健康機能の原型は、このころにほぼ提起されていており、技術革新・住宅設備の性能の向上とともに、健康機能のレベルも向上してきたといえます。その後、シックハウス対策に係る法令等に伴い、VOC対策としての建材および空気質に関する提案や、国内外における温熱環境と健康に関する研究結果が多数報じられたことから、その重要性への認識が高まりつつあります。現在は、高断熱仕様により室間温度差が小さくなることで、ヒートショックなどのリスクを減らす、すなわち健康のうち「身体的に良好な状態」へ寄与する視点からも、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様が提案されています。

住宅業界における近年の健康関連サービスの動向

図1は、住宅メーカーにおける健康関連商品・サービス(2015年時点)についてまとめたマトリクスです。実用価値(実用性)が高く、生命の保持の観点における基本性能に関するもの、すなわち「身体的に良好な状態」に寄与するものへ集中していることがわかります(図1、右下部分)
住宅メーカーの健康関連サービス(2015)
(図1)住宅メーカーの健康関連サービス(2015)

具体的には、怪我や事故などの予防・安全対策に関するもの、ヒートショックなどの温熱ストレス対策に関するもの、換気や空気質、VOC対策など生理ストレス対策に関するものです。現在の住宅業界において、健康のうち「身体的に良好な状態」へ寄与する提案が多く、「精神的・社会的にも良好な状態」に寄与する空間提案があまり見られないことが読み取れます。

住まい・建築環境の健康度に関する評価指標

住まい・建築環境の健康度に関する評価指標に、一般社団法人日本サスティナブル建築協会による「CASBEE健康チェックリスト」7)、IWBI(International WELL Building lnsti­tute)による 「WELL Building Standard TM」(WELL認証)8)があります。いずれも研究成果などの科学的エビデンスに基づき健康に寄与する空間環境のあり方を提示しています。
「CASBEE健康チェックリスト」では、居間・リビングやキッチンなどの居室別に、①暖かさ・涼しさ②静かさ③明るさ④清潔さ⑤安全⑥安心の6項目を健康要素として、住まいの健康度を採点、評価し、住み手に住まい方の改善を促す仕組みです。住まいという物的環境が、そこで住む人の健康に悪い影響を与える負の要素を減らすことで、主に身体的な健康に寄与する取り組みと言えます。
また「WELL Building Standard TM」(WELL v2)8)9)では、①AIR(空気)②WATER(水)、③NOURISHMENT(食物)④LIGHT(光)⑤MOVEMENT(活動)⑥THERMAL COMFORT(温熱快適性)⑦SOUND(音)⑧MATERIALS(材料)⑨MIND(こころ)⑩COMMUNITY(コミュニティ)の10のコンセプト(評価項目)から構成され、項目ごとに要件が具体的かつ詳細に示されています。
照度や温熱環境等の建築環境の設計仕様をはじめ、居住者に階段利用を促すしかけとして、ゲーミフィケーションを取り入れることや、居住者に対するウェルネス教育への取り組みにも言及しており、健康を総合的に捉え、広範に網羅していることが伺えます。また健康に悪影響を与える物的環境要素を減らすだけでなく、行動心理学的な視点からもアプローチしている点は、健康寿命の延伸をささえる建築環境を実現する上で、「精神的・社会的にも良好な状態」に寄与する、今後の設計手法を示唆しているといえます。

住まいが人の“健康”に果たす役割

これまでの住まい等における健康提案は、主に「身体的に良好な状態」に寄与するものを中心に展開されてきました。その一方で、WELL認証のような「精神的・社会的にも良好な状態」、すなわち心の健康に寄与する環境の提案も表れつつあります。

ミサワホーム総合研究所のウェルネス概念図
(図2)ミサワホーム総合研究所のウェルネス概念図

以上のことから、これからの住まいには、ヒートショック予防や家庭内事故、災害から身を守るなどの「身体的に良好な状態」を支える空間=「からだ」が健やかであることを基礎として、「心地よい」「気持ちいい」「ほっとする」などのポジティブな気持ちになれる場面を増やす空間、すなわち心理的な健康にも着目したウェルネス提案が、今後も一層期待されます(図2)。また、こころとからだの健康に着目したウェルネス提案をしていくためには、住まい手の暮らし方や、一人ひとりの価値観を深く理解すること、傾聴する姿勢が今まで以上に重要になっていくと思われます。




参考文献

1)「平均寿命」は、0歳の平均余命であり、死亡年齢の平均ではない。簡易生命表より、年齢毎にあと何年生きられるか、期待値が示されている。厚生労働省ホームページ,平成30年簡易生命表の概況,
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-02.pdf
2)厚生労働省ホームページ,平成26年版厚生労働白書,図表3-1-4 健康寿命の定義と平均寿命との差,
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/backdata/1-3-1-04.html
3)2000年~2012年を第一次とし、2013年より第二次期間に入っている。
http://www.kenkounippon21.gr.jp/index.html
4)北澤一利著,『健康』の日本史,平凡社新書,2000年
5)貝原益軒著,伊藤友信訳,養生訓 全現代語訳,講談社 学術文庫,1982年
6)外務省ホームページ,世界保健機関憲章,
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000026609.pdf
7)一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)ホームページ,CASBEE健康チェックリスト,
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/casbee_health/index_health.htm
8)WELL認証の評価基準に関する解説はWELL Building Standard v2 (Japanese) を参照,
https://www.wellcertified.com/node/5056
9)一般社団法人グリーンビルディングジャパンホームページ,WELLとは,
https://www.gbj.or.jp/well/about_well/