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これからの保育空間環境

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本能的に安心できる「巣まい」の心地よさを保育園に

厚生労働省※1によれば、保育所等利用率は年々上昇傾向にあります。これは人生の始期に子どもが長い時間を過ごす場として、保育空間環境の重要性が、近年相対的に高まっていると言えます。
ミサワホーム総合研究所では2009年から保育所の園舎設計に携わり、これまでに改修・新築の合計6物件を手掛けてきました。また0歳から6歳までの子どもが長時間過ごす場として、保育空間を“第二の住まい”と位置付け、商品化住宅における子育て環境づくりのノウハウを園舎デザインに活かしています。そこで、“人間にとって、本能的に安心できる「巣まい」のくつろぎと落ち着き、心地よさを保育園に”をコンセプトに、「健康」「あそび・まなび」「コミュニケーション」「地域・自然・地球」「安全・リスク管理」「保育者支援」の6つの視点から提案してきた設計事例から、その一部を紹介します。

快適光環境設計園児の生体・生活リズムを整える

(写真1)快適光環境設計

ミサワホーム総合研究所では、保育所等の利用時間が長時間化していることを受け、「朝」「午睡時」「目覚め~夕方」「夜間」の4つの生活場面毎に、照度及び色温度を変え、園児の生活リズム・生体リズムに配慮した光環境を提案しています。例えば「朝」では、体を目覚めさせ、交感神経活動を活発にするといわれる色温度※2 5000Kと高照度の光環境、「午睡時」には間接照明のみとし、色温度3000Kで低照度の落ち着いた雰囲気の中、眠りを誘うよう配慮しました。「目覚め~夕方」では色温度3000Kと5000Kを混合して使用し、「夜間」では、リラックス効果が高いといわれる3000Kとしています(写真1)。なお、調光システムを採用し、活動場面にあった光環境(照度と色温度)があらかじめシーン設定されている。ボタンを押すだけで光環境を変えることができ、保育者に負担がかからないようにしています。

午睡空間の提案「安眠蚊帳」

安眠蚊帳

子どもが午睡へと気持ちを切り替えやすくする工夫として、インテリアも重要であると考えています。「午睡時」の光環境に加え、午睡空間のインテリアとして“蚊帳”の使用を提案した事例(写真上)では、他園に比べ子どもの寝付きがよいと保育者から高い評価を得ています。間接照明の光が拡散し、蚊帳の中からは外の様子が見えにくく、子どもがより“眠ること”に集中しやすい環境が確保されていると推察されます。

快適音環境設計(吸音)

(写真2)快適音環境設計

2009年当初から、全保育室の天井材に、吸音天井材の使用を提案し続けています。保育室での吸音処理を提案する理由は、既報※3において、静謐感や落着きなどの人の心理に影響を及ぼすことが示されたことを受け、保育室内の音環境を住宅に近づけて、子どもに安心感を与える空間にすることを意図していることにあります。また睡眠時間の長い乳児室には、3倍ヒダカーテンを使用し、その他の保育室についても、ロールスクリーン類の生地はなるべく布系のものを選択し吸音性を高めるよう配慮しています。(写真2)

食育「キッチンスタジオ」

(写真3)食育「キッチンスタジオ」

キッチンスタジオ(調理室)は、食に対する興味・関心、調理をしてくれる人への感謝の気持ちを育む仕掛けとして、子どもの目線から調理室内の様子がよく見えるよう壁一面をガラス張りとし、更に調理室と保育室の間に床段差をつけて設計しています(写真3)。開園後に行われた保育者及び保護者を対象としたアンケート調査では、子どもの食に関する興味が高まったこと、また食の話題を通じて、園児同士だけでなく調理士や保育士、保護者と積極的にコミュニケーションする姿が見受けられる等、様々な好影響が確認されています。

地面の起伏を活かした園庭づくり

(写真4)築山・窪みなど地面に起伏や変化をもたせた園庭

園庭を計画する際、敷地周辺の環境(代替園庭となる公園)をチェックし、子どもが多様な動作経験を積むことができるように配慮しています。例えば近隣の公園に広大で平坦なグラウンドがある場合、園庭はそれとは逆に地面に凸凹をつけ、段差や丸太杭を利用し、独自の遊び方を編み出す経験を通して子どもの創造力を育むことを意図しながら設計します。実際築山(写真4)では、各子どもの発達にあわせた遊び方、斜面の登り降りをする姿が観察され、ダンボールで滑る、ほふくして登る、全身で転がり降りる等、子どもなりに遊び方を工夫する姿が多数観察されています。

おわりに

ミサワホーム総合研究所では、今後も研究や設計実績を積み重ねることで、園庭や建築環境などの物理的環境と子どもの発達的意味との関係について分析を行い、子ども視点での保育空間デザイン手法を確立していきたいと考えています。



※1 厚生労働省,保育所等関連状況取りまとめ(平成30年4月1日)
   https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000350592.pdf
※2 色温度とは光の色を数値で表したもので、単位はK(ケルビン)を用いる
※3 渡辺大助、長谷川恵美、中谷純、羽入敏樹、星和磨:
   「吸音による住空間の音環境快適化に関する基礎的研究、日本建築学会環境系論文集 第76巻 第662号、345-353、2011年4月