背景と目的
①目に見えない壁内の結露
四季がある日本の気候風土に対応するため、人は着衣で調整できます。しかし、住まいにとっては1年を通じて同じ外壁構成で耐えなければならず厳しい環境です。住まいを長持ちさせるには、壁の中に浸入した湿気が冷やされると発生する壁内結露への対策が必要不可欠です。なぜならば、目に見えない壁内で生じる結露は気づくことが困難であり、この結露による構造体の腐朽が原因で地震などの際に突然の被害を招きかねないからです。
②壁内結露対策「外壁通気構法」
この対策として、多くの木造住宅では窯業系サイディングを用いた外壁通気構法を採用しています。特徴は1次防水層のサイディングと2次防水層の透湿防水シートとの間に通気層、及び断熱材の室内側に防湿シートを設けることです(図1)。
防湿シートは室内の水蒸気が壁内に浸入することを抑制します。通気層はサイディングの接合部である相じゃくり部から浸入した雨水や、防湿シートを突破し室内から浸入した湿気を速やかに排出する役目を担います。このように外壁通気構法は、水分の浸入抑制と湿気排出を両立し、壁内結露を抑制するのです。
③壁内結露「冬型結露」と「夏型結露」とは
1)冬型結露
冬期に室内から壁内に水蒸気が浸入し、低温となる壁内の外気側で生じる結露です。石油ストーブなどの水蒸気を発生させる暖房の使用、防湿シートの欠如、通気層の無い湿式工法、低い外気温などの複合要因で生じる場合があります。この対策として外壁通気構法は、1970年代に北海道から普及しました。
2)夏型結露
夏期の日射により壁内の木材から放湿された水分が、冷房等で低温となっている壁内の防湿シート表面で生じる結露です。北海道に続き本州においても、外壁通気構法が広がっていきました。しかし、温暖な気候である本州では「夏型結露」現象が指摘され、多くの研究が実施されました。結果、夏型結露は、木材等の初期水分による一過性の現象、かつ冬型結露に比べて結露水量は微々たるものと考えられてきました。
④経年劣化が引き起こす水分による夏型結露、及び研究の目的
近年、狭小地住宅やキューブ型住宅など外装面への雨掛かりの負荷の高い軒の出が無い住宅が増加するなか、通気層への雨水浸入による夏型結露事例が報告1)されています。
また、国外においても軒の出が無い木造住宅における壁内結露事例があり、その対策として、通気層への雨水浸入を前提とした評価方法が検討2)されています。これらの研究から、夏型結露には木材に含まれている初期水分だけでなく、経年劣化による通気層への雨水浸入やサイディングの吸水といった、新築時からの材料物性の変化などが影響していると考えています(図2)。
このような経年劣化により増加する水分が壁内結露に影響するのであれば、住宅の耐久性を維持するためにはメンテナンスが必要となります。その必要性をオーナー様に納得して頂くためにも、これら雨水由来の水分が及ぼす影響を明らかにし、対策を提示することは重要な課題です。さらに、これから新築される方に対しては、これらの水分を適切に排出可能な仕様を提案することが、住宅の長寿命化に寄与するでしょう。
ミサワホーム総合研究所では外壁通気構法を用いた住宅での壁内結露メカニズム解明に関する研究を行っています。経年劣化により増加する水分としてサイディングの吸水、及び通気層内への浸入雨水に着目し、実験棟にてこれらの水分が壁内結露に及ぼす影響について研究した一部を紹介します。
実験棟による外装材吸水と雨水浸入が
壁内結露に及ぼす影響の把握
図2で推定したように、経年劣化により増加する雨水由来の水分が壁内結露に及ぼす影響を把握する為、実験棟を用いて壁内の水分変動を測定しました。
(1)実験棟の概要
実験棟では、劣化による雨水由来の水分負荷を壁内に与えるため、以下2点の条件を設定しました(図3)。
①サイディング塗膜劣化により増加する水分
サイディングの表面には、基材保護(防水)のため、塗装が施されています。この塗膜が経年劣化を示す白亜化(図4)が生じた場合、防水機能が低下していることが考えられます。
②シーリング劣化により通気層内へ浸入する水分
JASS27乾式外壁工事には「シーリング目地は劣化によりひび割れが発生し、雨水が浸入する危険性を有する」と記されているように、シーリングは経年劣化で一部剥離・亀裂などが生じる場合があります(図5)。そこで、本実験では、シーリングの劣化などにより通気層ヘ浸入する水分負荷を壁内に与えるため、軒先に漏斗を取り付け捕集した雨水を通気層へ直接注水しました(図3)。
(2)通気層の仕様
実験で用いた通気層は以下の通りです。(表1、図6・7)通気構法が導入された当時主流であった横胴縁や6mm金具、現在の主流である15mm金具の3仕様としました。
(3)実験結果:経年劣化による雨水由来の水分が夏型結露に及ぼす影響
最も水分蓄の生じた夏期における測定結果の一例として、東面における梅雨明け前後の壁内湿度、含水率、及び外気温の日平均、並びに日降水屋を図8・9に示します。
梅雨の間は、合板の含水率及び壁内湿度が上昇傾向でした。経年劣化を想定した水分負荷(通気層への雨水浸入とサイディングの吸水)の影響だと推察されます。梅雨明け以降は図8の合板含水率が低下し、外気の温度上昇で、サイディングや合板に含まれていた水分が、低温の室内側に放湿されたと推察されます。
そして、6mm金具及び横胴縁仕様では、室内側の防湿フィルム表面に結露が長期間発生しました(図9)。経年劣化による外部からの水分供給量が、通気層の排湿量を上回った影響と考えられます。特に、横胴縁仕様の結露期間が最も長いのは、シーリング劣化などを想定した注水が横胴縁で滞留した影響と推察されます。一方、15mm金具仕様では、結露は発生しませんでした。
以上から、図2で示した推定通り、経年劣化により増加する雨水由来の水分が、壁内結露に影響を及ぼすこと、この水分による壁内結露は一過l生の現象ではなく、長期間発生する可能性があることが確認できました。
また、現在主流の15mm金具仕様は、これら雨水由来の水分が生じた際にも、壁内結露リスクを抑える効果があることが確認出来ました。
おわりに
今回は、経年劣化により雨水由来の水分が目地部や外装材を通して通気層に浸入することを想定した実験の一部を紹介しました。実験では、住宅性能表示制度の劣化等級3を満たす横胴縁仕様でも壁内結露が発生しました。一方で、外装材劣化による吸水、及びシーリング劣化による雨水浸入を抑えるための定期的なメンテナンス(再塗装・シーリング打ち換え)がされていれば、日本窯業外装材協会における実験などから室内と躯体から放出する湿気量を排出できるという結果3)が示されています。
このような実験結果から、経年劣化が引き起こす雨水由来の水分による夏型結露を未然に防ぎ、住宅の耐久性を維持するためには、住まいのメンテナンスが必要であることがわかりました。
参考文献
- 1)国土技術総合研究所:木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究, 国土技術政策総合研究所資料第975号,2017
- 2)ASHRAE: Criteria for Moisture-Control Design Analysis in Buildings. ASHRAE Standard 160, 2009
- 3)日本窯業外装材協会:住宅の品質・耐久性向上と外壁通気構法,技術資料.Vol.8
関連リンク:テクノロジー:耐久性[防水・防湿]
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