はじめに
家事のストレスは長い間、問題視されてきました。そのため、悩みを解決する様々な手法や考え方、スタイルを多くの人が提案してきています。また、世の中では家電などのテクノロジーの進化、衛生水準の向上、商品の充実、サービスの提供など、生活を良くする様々な環境が時代とともに整えられてきていますが、家事のストレスは依然、消える気配はありません。一体これは何が要因なのでしょうか。
家事ストレス 9つのストレス要素
家事のストレスは大なり小なり生活を営むすべての人に存在します。一緒に暮らす家族の人数、タイプ、生活スタイル、価値観等、多様化している今、そのストレスの要因は複雑に絡み合っています。これらの理解や問題解決のためには、関係性を明らかにすることが大切ですが、それらは理解不足に起因するものと、個人と社会の時代変化(ライフステージ変化含む)に起因するものに分かれ、9つストレス要素が見えてきます。
【理解不足に起因するもの】
(1)夫婦間の相互理解不足によるストレス
<心理面>
世の中で最も良く取り上げられているものが夫婦間の認識や意識の差によるものです。ミサワホーム総合研究所が実施した調査によると、すべての年代で男女間による家事のストレスに差が見られました(図1)。特に50代から上の世代はストレスの感じ方に大きな差が出ています。一方、40代以下の世代では、男性のストレスも高くなっており、専業主婦が常識ではなくなった年代の男性家事参加について夫婦ともに大きなストレスを抱えている状態だと推察できます。また、40代女性が全世代で一番ストレスを感じる比率が高いのは、専業主婦という役割が常識でなくなった後の新たな家事の仕方に理想と現実の乖離がある可能性が高いと考えられます。
(2)異年代との常識乖離によるストレス
<心理面>
主に異なる年代における常識の差によって発生するストレスがこれにあたります。ここ数十年で男女の役割には大きな変化がありました。戦前世代から家長制度の影響を受け継いでいる世代とそれがほとんど感じられない世代とでは、大きな常識の乖離が生まれます。社会の様々な組織で残っている古い価値観と各個人が認識している価値観の乖離などがこれにあたります。
(3)評価不足によるストレス
<心理面>
家事の実施内容の把握不足、基準摺合せ等の認識不足により生まれるものです。家事をどちらかに任せている世代に多く見られます。
単に負荷を理解できないために過小評価されていると感じるストレスです。また、「ありがとう」という感謝の気持ちを表現する対話の重要性を軽視された場合なども該当します。
(4)家事品質のこだわりによるストレス
<心理面>
家事の主たる担い手が、やり方・スタイルや仕上がり等、こだわりや理想を持つがゆえに、協力してくれた家族のレベルに納得できず不満が溜まってしまうパターンです。これは協力が逆にストレスになってしまうという不幸な現象です。作業手法や品質にこだわらず、成果レベルを摺り合せることが、協力を引き出しストレスを和らげられますが、主たる担い手がこだわりを取るのか、協力による負荷軽減を取るのか判断することが重要です。
【時代変化に起因するもの】
(5)時間不足によるストレス
<時間面>
日本人は先進国の中で労働時間が長く、生産性が低いと言われています。日本の多くの企業が仕事の評価・報酬が時間前提になっている事が多く、残業することが普通になっていることも要因です。働き方改革などが実施される前のデータ(2000年)を見てみましょう。日本の傾向が顕著に出ています。仕事時間を切り口にデータをまとめた『家事と家族の日常生活』(品田知美2007学文社)ではオランダ、イギリス、日本の仕事時間の差は歴然と現れています(図2)。男女とも群を抜いて仕事時間が多く、男性は顕著です。そのため、職を持っている男性の家事時間は極端に少なくなっています(図3)。ただ、職を持っていない男性も家事時間がほとんどありません。時間が有る無しにかかわらず男性が家事を担う意識がないという日本社会の男性像がうかがえます。
(6)ライフステージ変化によるストレス
<時間面>
ライフステージの変化によって生活時間に変化が生まれ、実現したい家事の品質と現実の品質に差が出てしまうストレスです。子育てにかかる時間や介護に関わる時間がライフステージ変化によって実現できなくなってしまうために起こります。
(7)マルチタスクによるストレス
<時間面>
ライフステージ変化で使える時間に限りがある場合、家事はマルチタスクを求められる場面が多くなります。家事は一部作業を担う分にはそれほど難しくありません。そのためお手伝い程度の家事しか経験のない場合は、家事をこなすための状況把握力、判断力、実行力=マネジメント力がないために、どんなことがストレスに感じるか、重要性が理解しにくいのです。
【品質向上に関する視点】
(8)生活品質の向上によるストレス
<品質向上面>
日常生活での衛生面の品質向上は日進月歩です。テクノロジーの進化とともに商品やサービスは充実し、より良い生活として生活者の欲求はとどまるところを知りません。一昔前ならそこまで綺麗にしなくても良かった生活水準が今やぐんと上がっています。暑さ寒さがコントロールできれば良かったものが、塵や埃、ウイルス、空気質までより良くしたいというレベルに上がっています。また、写真映えする充実した生活がSNSなどで広がりやすくなることもあり、生活者は欲求を掻き立てられてしまうこともその要因です。
(9)食事の品質・バリエーションによるストレス
<品質向上面>
文科省が推奨している「早寝早起き朝ごはん」。基本的な生活習慣は大切ですが、それが未だに推奨されることにより、朝食は手の混んだものを作らなければならないのではないか、というストレスがあります。また食事を作る、作らないに関わらず、家庭の食卓を彩るために盛り付けや調達するという労力が増え、結果として家事時間は減少せずにストレスを感じてしまう事もあります。和洋中と 様々な食事のバリエーションを楽しめることも、かえって必要な食器や食材、調味料が多くなり、収納や献立作りが負担になる場合もあります。
家事の位置付けをどう捉えるか
これらのストレスを解消する方法として、有効な方法はあるのでしょうか。ここで忘れてはならないのが、家事を単なる作業=労働として捉えるか、作業=所作、行為として捉えるか、また、単独か協力して実施するものかで、解決する方向が変わります。単なる労働と捉えるのならば、自動化、外部サービス化、合理的な品質とコストで余分な負荷コストを払わない方向があるでしょう。究極はテクノロジーやサービスによって家事が不要になるという路線です。合理的な人々や他に優先事項がある人はこのような指向が見られます。
行為として捉える場合は、生活スタイルや家事にこだわり、その行為に何らかの価値を見出している場合がこれにあたります。どんな事を楽しい、充実していると感じるかで変わっていきます。どちらにしても、一緒に生活する家族がそれぞれの指向性を理解し基準を合わせることが家事ストレスのない生活実現の第一歩だと考えられます。
今後の生活における家事
家事はある意味、家族や家庭の経営で、生きるスキルです。だとすれば、家事をすることで得られる価値を引き出して豊かな生活を目指すという事が建設的だと考えられます。
日本人は、作業を単なる労働として捉えず、その行為に価値を見出す習性があります。例えば、茶道、武道、などは、本来持っている作業目的から派生し、単なる行為から身体の動きと心理を鍛錬する意味へと昇華しています。
それと同様、家事を、学びや精神鍛錬の機会、楽しみなどを見出すような「家事道」とでも言えるようなものが生まれるかもしれません。
また、共同作業をゲームのように楽しむ方向性もあります。今後は生活の中に様々なテクノロジーが入り込み、リアルとバーチャルが融合するような環境も現実味を帯びて家事も大きく変わる可能性があります。(続く)