キーワードから探す

モニタリング・非破壊検査による建物の見守り

  • LINEに送る

背景と目的

長期優良住宅制度が施行されて以降、多くの住宅会社は、建て替えやメンテナンスにかる環境・経済的負荷を軽減させるため、建物の長寿命化を推進しています。ミサワホーム総合研究所も建物の耐久性(メンテナンス費用の抑制)に大きく影響を及ぼす外装部材・防水部材の高耐久化に関する技術を多く開発してきました。そして、ミサワホームは住宅業界でも最長レベルの長期保証制度を実現し住宅業界をリードしています。
しかしながら、住宅の長寿命化が進むと、必然的にこれまでよりオーナー様の住まいを管理・点検させて頂く期間も長くなります。
住まいの販売を重ねる毎に管理・定期点検が必要な棟数も増加し、その結果、点検を行うアフターサービススタッフの負担が大きくなっています。また、建物の築年数が増すほど、紫外線や風雨により経年劣化が進行し、安心して住まい続けて頂くためには、詳細な点検が求められます。
一方、高度成長期に建設された橋梁などのインフラ施設も更新時期のピークを迎えており、維持管理(点検作業・メンテナンス)の省力化、及び高度な検査技術の開発が社会的課題となっています。この対策として、IoT(Internet of Things)を活用し加速度センサなどを建造物に取り付けたモニタリングシステム、並びにドローンなどを用いた維持管理の省力化を図るための技術開発が進んでいます。
そこで住宅分野においても、アフターサービススタッフの作業省力化、並びに劣化を早期発見することによるオーナー様の維持管理費の低減、及び資産価値の維持向上を目的に、IoTを活用した建物の見守りと構造体内部の非破壊検査技術に関する研究を行っています。ここでは、その研究概要と世の中で 検討されている技術の紹介を致します。

モニタリングシステム及び非破壊検査を用いた建物の見守りの概要と効果

(1)概要
各種センサを用いたモニタリングシステム、及び非破壊検査ツールによる建物の見守りの概要を図1に示します。普段は目にすることができない建物の中に様々なセンサを設置することにより建物の状態を常時計測し、異常が生じた際は早期検知が可能となります。また、見守りセンサだけでは計測が困難な部位に対しては、点検時に非破壊検査ツールを用いて建物状態を詳細に点検します。このようにモニタリングシステム及び非破壊検査ツールを用いて建物の見守りを行います。
各種センサを用いたモニタリングシステム、及び非破壊検査ツールによる建物の見守り

図1 各種センサを用いたモニタリングシステム、及び非破壊検査ツールによる建物の見守り


(2)効果
モニタリングシステム及び非破壊検査による効果を図2に示します。センサデバイスを建物に設置することにより、住宅供給者への点検作業の省力化、並びに住まい手への維持管理費の低減及び資産価値形成を図ります。
また、詳細な点検が可能な非破壊検査により、点検精度の向上、及び中古住宅流通の促進など新しいビジネスチャンスの拡大を図ります。その結果、社会課題である空き家問題の低減、良質な住宅ストックの形成、及び環境負荷低減に貢献が可能となります。

モニタリング及び非破壊検査による住まい手・住宅供給者・社会課題への効果

図2 モニタリング及び非破壊検査による
住まい手・住宅供給者・社会課題への効果

 

木造住宅の主たる劣化要因

木造住宅の主たる劣化要因は、漏水や結露による木材の腐朽やシロアリによる蟻害となります。
木材が腐朽する為には、❶栄養(木材自身)、❷酸素、❸温度、❹水分の4つの条件が揃ったときに発生します。言い換えれば、どれか一つでも抑えることができれば、腐朽は発生しないとも言えます。一般的に、唯一抑制が可能といわれるのが④の水分と言われていますので、著しい水分上昇が生じた際に、モニタリング・非破壊により早期に検知し対処することができれば、腐朽の発生を抑制することが可能となります。
また、もう一つの要因である蟻害に関しても住宅に被害を及ぼすシロアリ(ヤマトシロアリ、イエシロアリ)は水分の無いところでは生存が困難となりますので、同様に水分の上昇を検知することにより蟻害の抑制も可能となります。
このように腐朽や蟻害に繋がる水分に関するセンシング技術や非破壊検査技術による建物の見守りが重要となります。

モニタリングによる建物の見守り技術

(1)水分検知に必要なセンサの種類
❶含水率センサ
木材に含まれている水分の量を示す基準として、一般的に含水率(%)を使用します。この含水率が25%以上の状態が長期間継続すると木材に腐朽が生じ、15%以下の状態であれば問題ないと考えられています。含水率を検知する為に、木材に2本以上の電極を取り付け、電極間の電気抵抗を測定することにより含水率を計測することができます。
❷結露(湿度)センサ
空間の中の水分の状態を示す指標として、最もなじみがある指標が湿度(%)かもしれません。木材は直接水に触れなくとも、空気中の水分(湿気)を含むことにより含水率が上昇します。一般的に、木材の含水率と湿度の関係は平衡含水率曲線で示され、湿度95%以上の状態が継続すると木材の含水率が上昇し腐朽も発生する可能性があります。
❸漏水センサ
配管の継ぎ目などからの漏水を検知する為、漏水が想定される部位に電極を2本平行に巻き付けます。電極を跨ぐように水が濡れると電極間に電気が流れセンサが反応する仕組みにより漏水を検知することができます。
(2)耐久性モニタリングセンサ
ミサワホーム総合研究所では、上記水分に関する情報を一括して計測可能な耐久性モニタリングセンサを開発しています(写真1参照)。この装置は、測定機にコネクタがついており、必要に応じて様々なセンサ端子をつなぐことができるハブ機能の役割を持たせております。現段階では、「含水率」「湿度」の他に、家の「傾斜(傾き)」を測定することができます。傾斜に関しては、高精度の3軸加速度センサを用いて1/1000単位で家の傾きを計測することができます。家中の様々な場所に取り付け可能なように電源は電池供給とし、煩わしい配線作業が不要となります。

耐久性モニタリングセンサ

写真1 耐久性モニタリングセンサ

 

電波を用いた非破壊検査による建物の見守り技術

一般的に住宅の構造部材(木材)は、外側は外装材と呼ばれるサイディング、内側はビニールクロスで覆われています。構造体の水分状態を確認する為には、これらの被覆材を剥がす必要があり、大掛かりな工事が必要となります。そこで、これらの被覆材を剥がさずに構造体の状態を検知可能な電波を用いた非破壊検査技術の紹介をします。
❶ICタグによる水分検知
ICタグとは、IC(集積回路)チップとアンテナを内蔵したタグであり、アンテナを内蔵した読み取り機(リーダ/ライタ)から電波を送信しICタグのデータを非接触で読み書きすることができるシステムです。最近では交通系ICカードや物品のバーコードなどに用いられ普及が進んでおり、現在は温度・湿度を計測可能なICタグも開発されています。
ミサワホーム総合研究所では、このICタグを予め構造体に埋め込むことにより、外装材や内装材の上から読み取り機(リーダ/ライタ)により、構造体である木材の水分データを取得することができるシステムを開発しています。(写真2参照)

 

写真2 読み取り機により構造体内に設置したICタグ情報を検知している様子

❷レーダによる水分検知
RADAR(Radio Detection and Ranging)とは、電波による探知および測距の略称です。様々な周波数帯の電波を送信し検知対象となる物体から反射される電波を受信し、その受送信に掛かる時間から対象物の探知、又は距離を計測する技術です。電波は物質の特徴により、吸収される周波数帯が異なります。周波数を調整することにより、外装材や内装材の上から、非破壊により建物の中に含まれている水分の状態を検知する技術が研究されています。

おわりに

ここでは木造住宅の主たる劣化要因である腐朽・蟻害を引き起こす水分のモニタリング、及び非破壊検査方法を紹介し、これらを用いた建物の見守りが、住宅の質の向上や維持管理の省力化に貢献できる技術であることを紹介しました。
今後は、水分以外の劣化要因を検知可能なセンシング技術、及びインフラ施設や中大規模建築で研究が進んでいるドローンによる画像解析を応用した検査技術の研究を通じて更なる住宅の質の向上や維持管理の省力化に貢献したいと考えています。


関連リンク:ミサワホームのアフターメンテナンス体制