1.背景と目的
開発から40年以上経過した郊外の既存戸建住宅地は、高齢化と人口減少が一斉に発生し、それに伴いコミュニティ機能が低下しています。また、住宅需要の減少により、空き家や空き地が増加したことで、景観や治安などが悪化しています。これらの課題は、将来的に住宅地のイメージに深刻な影響を及ぼす可能性があり、早めの対策が必要です。
本研究※1)では、持続可能なまちを目指し、八王子市内の既存戸建住宅地の基礎調査を行った上で、住宅ストックの適正な循環を促す施策の検討と立案を手掛けました。本誌では、その取組みの一部である八王子市中心市街地エリアの新規分譲戸建住宅地「結びのまち」について紹介します。
2.「結びのまち」の取組み
2-1.持続可能な住宅地を目指す
「結びのまち」は、住宅生産振興財団とハウスメーカー10社が共同で開発した新規分譲戸建住宅地です。目指したのは、持続可能で多世代MIXなまちで、販売当初から事業者が資金を負担し、住民間の交流を促す施策を実施しました(図1)。その中でミサワホーム総合研究所は、プロジェクトのマネージメントを担当し、クラブハウスの運営やまちづくり活動の提案等を行いました(図1)。住宅地内では、訪問看護ステーションや住まいコミュニティマネージャが常駐するクラブハウスの設置に加え、住民のコミュニティ醸成のきっかけ作りとして、小比企町にある住民専用農園での収穫体験や街歩きをしながら庭木のお手入れを学ぶグリーンウォークといったイベントを開催しました。
その結果、住民間のコミュニティ醸成だけでなく、管理組合の役員に定員を超える応募があったなど、住民の主体性を育むことにも繋がりました。「結びのまち」のように販売初期から事業者負担でまちづくりに取り組むことは珍しく、各社が「売って終わり」にしないという思いのもとに連携したことが良い流れを作ったと言えます。
一方で、事業者の運営終了後も住民主体でまちづくり活動できるように運営を管理組合に移行する必要があります。今回は運営移行後にまちづくり活動が減少してしまわないように、事業者の運営終了の数か月前から住民に運営の一部を担ってもらうようにサポートしました。
2-3.農協・町の農園との連携に高い関心
アンケートの結果(図2)から、「農協連携」や「小比企町農園との連携」、「クラブハウスにライブラリー設置」など、住民が日常的に体験できる施策に高い関心が寄せられました。特に、活動頻度が多かった「農協連携」や「小比企町農園との連携」は1年間で関心度が増加していることが分かります(青破線)。
一方で、元々関心が低い、もしくは関心度が下がった項目(赤破線)として、「病院と健康管理サービス連携」や「地域の学校・大学と連携」等があります。これらはコロナの影響により活動が制限されたことが理由になっていると考えられます。また、将来的な空き家予防に繋がる「住み替え支援」等に関しては、当然ながら購入当初は考えていないという結果となりました。
居住者が増えていく中で、1年間で関心度が増した「小比企町農園との連携」等の施策は、まち全体のブランドやそこに住むことで得られる暮らしの価値向上に寄与し、入居後の満足度を高めているのではないかと考えられます。
3.まとめ
新規分譲戸建住宅地の継続的なコミュニティ醸成を目的に、「結びのまち」では、様々な施策を実施し、アンケート調査で施策の効果を検証しました。その結果、住宅購入者の関心が高い施策を、郊外の既存戸建住宅地に展開することで、若年層の流入やコミュニティ醸成、ストック循環に繋がる材料となりうることが示されました。今後は、既存戸建住宅地への展開を視野に、引き続き研究を進めていきます。
- ※1 :八王子市、日本工学院八王子専門学校、一般財団法人住宅生産振興財団、株式会社ミサワホーム総合研究所で「四者まちづくり研究連携協定」を締結し、産官学連携で実施