新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令の影響で、多くのワーカーが長期的に在宅型テレワークを実施することになりました。ミサワホーム総合研究所では、この状況下におけるオフィスワーカーの在宅型テレワーク(在宅勤務)と住まいの課題を抽出するため意識調査を行いました。
※オフィスワーカーとは一次産業に従事する方、自営業、自由業等を省いた仕事を持つ方
調査概要
調査方法 : WEBアンケート調査
調査時期 : 2020年6月4日~5日
調査対象 : 全国、20歳~69歳 男女824名(戸建居住618名、マンション居住206名)
既婚者、世帯年収400万円以上、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務をされた方
調査委託先: 株式会社マクロミル
調査結果
家事のストレスは大なり小なり生活を営むすべての人に存在します。一緒に暮らす家族の人数、タイプ、生活スタイル、価値観等、多様化している今、そのストレスの要因は複雑に絡み合っています。これらの理解や問題解決のためには、関係性を明らかにすることが大切ですが、それらは理解不足に起因するものと、個人と社会の時代変化(ライフステージ変化含む)に起因するものに分かれ、9つストレス要素が見えてきます。
(1)在宅勤務の状況
在宅勤務での困りごとは「仕事に適した場所がない」「運動不足・座りっぱなしによる身体疲労」
在宅勤務における困りごとについてお聞きしたところ、「仕事に適した場所がない」が28.4%と最も多く、次いで「運動不足・座りっぱなしによる身体疲労」27.8%、「仕事に適した家具・設備がない(デスク、モニタ、椅子など)」26.3%という結果となりました。執務環境の整備や身体面で課題を感じた方が多くいることがわかりました。
さらに在宅勤務した場所別でみると困りごとに違いがあることがわかります。最も実施した方が多かったリビングでは「仕事に適した場所がない」、2番目に多かった書斎は「運動不足・座りっぱなしによる身体疲労」、3番目に多かった寝室では「仕事に適した家具・設備がない(デスク、モニタ、椅子など)」がそれぞれ最も多い結果となりました。書斎は集中して業務できる反面、座りすぎと感じる人が多い傾向にあると推察されます。
在宅勤務では「1箇所」のみで仕事をした人が70.9%、仕事内容によって場所を使い分けるニーズあり
在宅勤務のために使った場所の数についてお聞きしたところ、「1箇所」が70.9%、「2箇所」が24.0%という結果となりました。オフィスでは近年、仕事内容に合わせて働く場所などを選ぶ「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」という働き方が欧米を中心に広まり、日本でも導入する企業が出はじめています。在宅勤務で仕事内容に合わせて場所を変えることは住まいの環境では難しく、1箇所のみで仕事をしていた方が大多数でしたが、環境があれば、「集中したい時(一人で行う業務)」で場所を使い分けたいと考えている方が46.4%と約半数となりました。
(2)住まいの環境を変えたこと、生活の変化
2-1 在宅勤務のために住まいの環境を変えた人は31.4%
在宅勤務のために、片付け、インテリア変更、設備変更、物品購入、模様替え、レイアウト変更、DIYなど、住まいの環境に手を加えた人は31.4%でした。実施内容をみると、「リビングに手を加えた」、「ダイニングに手を加えた」、「書斎に手を加えた」など空間に手を加えた方が多い結果となりました。
家で過ごす時間をより快適にするために住まいの環境を変えた人は43.1%
在宅勤務以外の目的で、家で過ごす時間をより快適にするために、片付け、インテリア変更、設備変更、物品購入、模様替え、レイアウト変更、DIYなど住まいの環境を変えた人は43.1%でした。「リビング」で実施した方が64.8%と最も多く、くつろぐ場をより快適にする意向が高かったと推察されます。また、「庭」が22.5%、「バルコニー・屋上」が10.7%と屋外に手を加えた方も一定数あり、外出自粛という状況下で外部空間を充実させたいという意向があったと推察できます。
2-2 家で過ごす時間で最も増えた活動は「家事」
外出自粛の影響で家で過ごす時間が長くなりましたが、最も増えた活動についてお聞きしたところ、回答者全体では「家事」20.8%、「睡眠」17.6%、「余暇」16.1%という結果でした。
子どもがいる家庭の状況別にみると、小学生・中学生のいる世帯では「家事」が約3割と回答者全体よりも高い結果となりました。また、2歳~小学生未満の子どもがいる世帯では「育児・介護」が44.2%と最も多く、小学生未満のいる世帯で「育児・介護」が高い傾向となりました。子どもがいる家庭では、睡眠・余暇などの生理的・余暇的活動よりも、家事や育児・介護など義務的活動に費やした方が多いことがわかりました。
在宅時間が増えたことで約4割の人が「家事の役割分担」が変わった
家で過ごす時間が増えたことで生活のなかで変化したことは、「家族が同じ空間で一緒にいることが増えた、顔を合わせることが増えた」が72.5%と最も多く、「家族と会話が増えた」57.8%、「家族の仲が良くなった」32.4%など、概ね家族関係が良好に変化した方が多い結果となりました。また、家で過ごす時間が増え、家事をする時間も増えたことで、「家事の役割分担」が変化した方が37.4%と約4割となりました。今後在宅勤務が定着していくと、家事の分担や家事スタイルにも変化が出てくる可能性があると推察されます。
(3)暮らしや住まいの意識変化
「場所にとらわれない働き方」「住む地域は都心部よりも自然豊かな郊外」が良いと思うようになった
今後の暮らし、住まいや居住地に求める要素について、考え方や価値観の変化があったかをお聞きしたところ、「場所にとらわれない働き方が良いと思うようになった」76.5%、「住む地域として、人口が密集した都心部よりも自然豊かな郊外が良いと思うようになった」64.6%という結果となりました。
住む地域は都心部よりも自然豊かな郊外が良いという考え方については、回答者の居住地域別でみると、「自然豊かな地域」「郊外住宅地・ニュータウン」の約8割が「そう思う」と回答し、既に郊外地域に住んでいる方の多くがその思いを強くした一方で、人口が密集していると考えられる「繁華街・商業地」の方の63.8%が「そう思う」と回答しています。また、既成市街地・既存住宅地に住んでいる方でも55.8%と半数以上が自然豊かな郊外が良いという意識になったという結果から、今後の住まい選びの基準が変わる可能性があると推察されます。
(4)今後の住まいに求めること
在宅勤務空間は「4畳半程度の個室」の意向が高い
今後の住まいに求めることとして在宅勤務空間についてお聞きしたところ、「取り入れたい」「やや取り入れたい」の合計をみると「4畳半程度の個室」が62.4%と最も多く、「2畳程度の最小限の個室」も50.4%と個室への意向が半数以上あることがわかりました。在宅勤務空間を一時的なスペースとして確保するだけでなく、ある程度の広さのある空間確保への意向が高いことが推察されます。
これまで在宅勤務のために個室まで設けようと考える人は多くありませんでしたが、今後も在宅勤務が定着すると感じる人が増えたことで、改めて在宅勤務用の個室の重要性が高いことがわかりました。
今後住まいに取り入れたいウイルス対策は「手洗い場の動線計画、玄関横に手洗い器」
家にウイルスを持ち込まない工夫として取り入れたい要素をお聞きしたところ、「取り入れたい」「やや取り入れたい」の合計をみると「手洗い場の動線計画、玄関横に手洗い器」が74.5%と最も多く、次いで「玄関で上着を脱ぐ、玄関にコート掛け」が72.3%という結果となりました。ウイルス対策への意向は全体的に高い傾向ですが、単体の設備よりも動線や玄関まわりで外部からの流入を防ぐ計画への意向が高いことがわかりました。
今後住まいで取り入れたい気分転換できる場所の拡充は「バルコニー・屋上などの外部スペース」「庭」
気分転換できる場所で拡充したい箇所をお聞きしたところ、「取り入れたい」「やや取り入れたい」の合計をみると「バルコニー・屋上などの外部スペース」70.6%、「庭」68.8%、「趣味室、書斎などプラスアルファの個室」66.0%でした。外出自粛の影響でバルコニー・屋上、庭など自宅における外部空間の充実の意向も高いことがわかりました。
この住まいの意識調査の結果により、住まいに求める常識が大きく変化していることが改めて浮き彫りになりました。一定期間の外出自粛や在宅勤務の状況におかれたことによる影響が大きく、今まであまり意識してこなかった仕事やプライベートの様々なことに気づき、見つめ直したことで、価値観が変化しはじめているのではと考えられます。
住む場所については利便性の高い都心部ではなく、自然豊かな郊外がいいという意識の変化がみられ、住む地域の選択基準が変わる可能性があります。日本では地価が高い都心部に住むことがステイタスとされる傾向にあり、職住近接、利便性を追求した駅周辺部の再開発がここ数十年は主流でした。一方、海外に目を向けると、アメリカでは家族を持つ富裕層の多くは郊外の住宅地に住む傾向にあり、都心部へ車で通勤します。通勤時間が長くなるデメリットはありますが、自然豊かで治安が良いという住環境としてのメリットの方が大きいようです。
在宅勤務の定着により出社機会が減ることで、通勤時間などの利便性を優先して住む場所を決めていた人が、その他の住環境を優先するようになることが想定されます。つまり、働き方が変わり、住む地域や住まいも変われば仕事やプライベートも豊かになる可能性があるといえるのではないでしょうか。
在宅勤務が定着するようになると、調査結果でもあったように仕事の空間の必要性、個室への投資の意向が高まると推察されます。これまでは一時的に対応し、仕事に適した独立した空間を整備する必要性を感じていなかった人も、作業効率や身体面の負担、オンオフの切替え、家族との関係から個室を設置することを検討するようになると考えられます。核家族化が浸透した現代の間取りは、個室は子どもの人数に合わせて最低限の数を用意し、子どもが成長すると柔軟に使える個室がなくなってしまうことが多かったですが、今後は住まいに求められる機能に合わせて、部屋の用途や数、広さの常識が変わる兆しが見受けられます。
今回の調査により明らかになった課題や住まいに対する価値観の変化により、住まいも大きく変えていく必要があります。これを受けてミサワホーム総合研究所では、「働き方と住まいの転換期 これからの在宅型テレワークの課題と提案」として、今後の住まいにおける考え方をまとめましたのでご参照ください。
著者:
ミサワホーム総合研究所 フューチャーデザインセンター 市場企画室