• ホーム/
  • トピックス/
  • 子どもの身体活動からみた園庭園舎デザイン検証プロジェクト(その2)
キーワードから探す

子どもの身体活動からみた園庭園舎デザイン
検証プロジェクト(その2)

  • LINEに送る

2階 遊戯室

1.はじめに

前報(その1 Mレポvol.110)では、ミサワホームで設計を手掛けたA保育園(以下A園)の新園舎を対象に、建替えに伴う園舎環境の違いにより子どもの生活行動がどのように変化したのか、身体活動量および遊びの様子を中心に調査しました。その結果、終日室内で過ごした雨天日の園舎内活動時の活動量が低下しており、何らかの対策が必要であることが明らかになりました。また近年の気候変動の影響により、晴天日でも猛暑のため外遊びができない場面もあることから、室内で子どもが体を動かす機会を確保することが今後より重要になると考えられます。そこで今回は、暑さを理由に外遊びができない場面も含め、雨天日など終日園舎内で過ごす日の活動内容、空間の使い方について改善策の検討を進め、子どもの健やかな成長を育む保育環境づくりを目指した取り組みについてご紹介します。

 

2. 「雨天日等の室内活動量低下」改善策の提案

前報で明らかになった課題「雨天日等に室内で体を動かす機会の確保」に向けて、A園、早稲田大学、ミサワホーム総合研究所、ミサワホーム合同で、改善に向けたアイデア出しを実施しました。その結果、通常保育の流れを大きく変えずに、自然に全ての子どもが「動く機会」につながるような仕掛けとして、自由遊びの場を、一部保育室から遊戯室へ移動して過ごす案に絞込みました。加えて、子どもが自然に体を動かしたくなるような遊戯室・廊下のインテリアの改装案をまとめました。

 

廊下のインテリア改装案

3歳児クラス以上が主に利用する2階の廊下はスムーズな移動が主な目的のため、安全面を考慮の上、ウネウネ歩き・四つん這い・壁つたい、一本線上を歩くなどある程度動きを限定して床や壁にラインテープや円形状の図柄を設定しました。なお床や壁に設えた円やラインの間隔は、子どもの歩幅に合わせて300mm前後としました(図1)


(図1)新園舎 廊下インテリア改装案

 

遊戯室のインテリア改装案

遊戯室での自由遊びを通して、上下運動や、水平移動など子どもが自然に体を動かすことにつながるよう、遊戯室内を「壁アートゾーン」「バルーンゾーン」「整列ゾーン」「ランダムゾーン」の4つにゾーニングしました(図2)。例えば「バルーンゾーン」では、雲に見立てた風船を天井から吊り、風船の設置高さは変化を持たせて、上下運動など、子どもの様々な動作が引き出されるように工夫しています。また、「バルーンゾーン」では上方に意識が向きやすいため、安全性に配慮し、「バルーンゾーン」の床には図柄を設けないこととしました。「整列ゾーン」では、床の図柄に規則性を持たせ、「ドンジャンケン」遊びもできるようになっています。「ランダムゾーン」では、子どもの見立て次第で遊びが広がるよう、大小異なるサイズの図柄を床に不規則に設けています。


(図2)新園舎 遊戯室インテリア改装案

 

3.改善策の効果検証

雨天日など終日園舎内活動時に「室内で体を動かす機会の確保」に向けた改善策の提案が、ねらい通りであったか効果検証を行いました。なおクラス単位・保育プログラムに沿った活動が中心である4・5歳児クラスを対象とし、調査日は、雨天日と同様、猛暑を理由に終日園舎内で過ごした2日間を対象に調査を行いました。また幼児の身体活動の評価には質と量の両面でみていくことが重要と考え、活動量調査および参与観察調査のほか、保育者ヒアリングを実施の上、考察しました(表1)。

(表1)調査概要

 

保育プログラムについて

4・5歳児クラス共に、調査日は終日室内活動であり、順次登園から昼食、午睡等を経て順次降園する保育プログラムの流れは共通していました。
4歳児について、1日目(改善策の実施前)は終日保育室で活動し、2日目(改善策の実施後)の午前中は、室内自由遊びの一部を遊戯室にて実施していました。また5歳児クラスについて、両日とも午前中に遊戯室を利用し、1日目は運動会の練習(鉄棒およびダンス)を、2日目は午前中の室内自由遊びの一部を遊戯室にて実施していました。なお午後の保育プログラムは、両日ともほぼ同じ内容でした。

 

活動量結果(終日値)

終日値の歩行数、中・高強度活動長さについて、4歳児クラスは、終日値の歩行数、中・高強度活動長さのいずれも有意差は認められませんでした。5歳児クラスは歩行数、中・高強度活動共に、改善案の方が有意に多いという結果になりました(図3)


(図3)終日歩行数および中・高強度活動

 

活動量結果(室内自由遊び)

遊戯室、保育室のそれぞれで実施した室内自由遊び時注)の中・高強度活動長さ(平均値、10分換算)を比較した結果、4・5歳児クラス共に、中・高強度活動の出現時間長さは、遊戯室の方が有意に長いという結果になりました(図4)
また遊戯室での室内自由遊び時の、子どもの遊びの内容について、壁・天井を使った仕掛けにより、叩く、引っ張る、振るなど上肢を多く使う姿がみられました(図5)。活動量計では上肢を使った動きが把握しにくいため、全身を使うという意味での提案の効果は出ていると考えられます。また保育者ヒアリングによると、当日の子どもたちの様子として「充分な発散ができた。風船での上下の動きに体を使っていた。」「外遊びの方が、単純動作が多い。遊戯室の方が狭いので、周りに注意を払いながらいかに走るかという動きの難易度の高さがあった」「(自由遊びの時間に)遊戯室に(保育士を)一人常駐で配置出来て、行きたい子が自由に遊戯室へ行き来できる状態だと、もっと効果が出せるかもしれない。」との感想がありました。以上のことから、改善策の実施を通して、身体活動量だけでなく、上肢も多く使うなど遊びの内容も改善された事が明らかになりました。


(図4)自由遊び場面 中・高強度活動

 


(図5)上肢を使った動きの例

 

4.まとめ

終日園舎内活動時の活動量低下について、改善策を考え、遊戯室及び廊下のインテリアを工夫し、通常保育の流れを大きく変えずに室内自由遊びの一部を遊戯室で実施し、その前後で効果検証を行いました。その結果、以下のことが明らかになりました。
保育室での自由遊びを一部遊戯室に置き換えることで、子どもが体を動かす機会を増やすことにつながる。
室内自由遊び時に、気軽に遊戯室を利用しやすいよう、遊戯室と保育室のアクセスを良好にすることが望ましい。例えば遊戯室を中心に保育室を配置し、保育室~遊戯室間の見通しが確保された平面計画とする等が考えられる。
全身を使うという視点、自然と子どもが体を動かしたくなるような遊戯室のインテリアの工夫として、 天井から吊ったオブジェや壁に模様を付ける(上肢を使用した動き)、床に模様を付ける(下肢を使用した動き)等が考えられる。
雨天、猛暑日も含め、今後は室内でも子どもが体を動かす機会が得られるようハード、ソフト両面から提案していくことが必要。

 

5.今後の展望

ミサワホーム総合研究所では、今後も研究及び設計提案を積み重ねて行き、子ども視点での保育空間デザイン手法を確立していきます。

 

■謝辞

本調査にご協力いただきました、A園の園児、保護者、保育者の皆様に感謝いたします。当研究は早稲田大学鳥居俊研究室、石井香織研究室との共同研究になります。また、当研究は早稲田大学倫理委員会において審査を受け承認を得ています。

 

注)
2日目(改善策の実施後)に遊戯室で行われた室内自由遊びとほぼ同じ時間帯に行われた、1日目の室内自由遊び(9/11 午前)を対象とし、10分換算値で身体活動量の比較を行っています。

住文化・暮らしデザインの記事