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日本の都市とコミュニティの展望

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日本の都市とコミュニティの展望

"森林大国"日本の都市の生命線

1960年代より経済大国として発展を続けてきた日本は現在、少子高齢化と人口減少期を迎え、右肩上がりの経済・ 都市政策を大きく転換させなければならない局面に差し掛かっています。都市のコンパクト化や地域経済の立て直しが議論される今日、中山間部から大都市に繋がる物質・エネルギーの連鎖、情報、モビリティなどの技術革新に及ぶ多様な関係性を見つめ、日本ならではの持続可能な都市の在り方を、自然・歴史・文化・経済など多角的視点で、将来予測される都市とコミュニ ティの課題と展望を考察し、ミサワホーム総合研究所が考える"都市再生トリセツ"の序章として記します。
日本は、国土の約7割が森林という世界有数の森林大国です。しかし、都市で暮らす私たちは普段、森林を意識することは少なく、ハイキングやキャンプ、スキーなどレクリエーションの対象としての認識に留まり、過疎問題や限界集落など、森林を守ってきた中山間地域の課題を対岸の火事として傍観者の視点で認識しているようです。ところが都市生活の中で、当たり前のように利用している飲料水や食材、澄んだ空気は森林を起源とする物質循環によって手に入れることができるのです。また、雨による河川の急な増水を抑制し、水害から都市を守っているのも森林や中山間地域の持つ水量調節機能によるものです。しかし、このことに気付いている都市生活者は多くはないでしょう。
日本の森林を守り育ててきた中山間地域のコミュニティが衰退することは、すなわち森林の持つ環境保全機能を低下させ、やがて都市部の生活環境に深刻な影響を及ぼすことは容易に推測できます。都市機能の健全性が森林に支えられていることを認識すれば、中山間地域から都市に繋がる幾筋もの生命線が見えてきます。
日本の都市構造は、19世紀の明治維新を機に大きく変化したと考えられます。江戸時代の江戸・ 尾張 ・大坂などの大都市や地方都市の多くは、水害に強い台地上に造営されましたが、明治以降は人口増加と経済活動の発展により、それまで人の住まなかった沿岸部の低地へと都市化を重ね拡大を続けました。現在、日本の人口の約8割が、国土の3割に満たないこのような低地を含む平野に暮らしています。近年大規模地震や河川の氾濫により大きな災害が繰り返されている要因の一つ に明治以降の危険地域への都市化があると考えられます。
人口減少の局面を迎えた日本では、自然災害を受けにくい都市空間の再編の好機であると言えます。 「過密」から 「適密」への都市ビジョンを丁寧に描き出し、2050年のカーボン・ニュートラルの実現に向けてエネルギーの効率的利用をはかるシステムやネットワークの開発、廃棄物をゼロに近づける流通、消費活動の取組みにより、先人が紡ぎだしてきた自然の営みや地球環境に寄り添う、しなやかな暮らし方を再び手に入れることが、日本らしい都市のありかたと言えるのではないでしょうか。

立地特性による都市の考察

1.大都市
■課題
1950年代より、太平洋沿岸部への企業集積、投資、雇用が活発に行われ、地方から都市への人口集中が顕著になり、沿岸地域の工業化の拡大に伴って大気汚染や交通渋滞、居住環境の悪化等、過密による様々な環境問題が顕著になりました。また、東日本大震災では、物流、情報、エネルギーなど大都市基幹機能の脆弱性が浮き彫りになりました。
■展望
今までの集約効率化指向から、分散化と密度の最適化によって、歩行者専用ネットワークやオープンスペースの整備など、ゆとりある都市空間の再構築と都市環境ならびに都市防災機能の改善が期待されます。
ITの進化により、文化・ 情報の集積と発信といったインテリジェンス・ハブとしての役割は一層高まるとともに、豊かな自然環境の再生と災害に対するレジリエンスを獲得する、日本ならではの国際都市の再編が重要施策となるでしょう。

大都市

2.郊外住宅団地
■課題
大都市への人口集中に対応するべく新規に開発された郊外住宅団地(ニュータウン)は、ニューファミリーと呼ばれる結婚・子育て期を迎えた団塊世代の暮らしの場として、1960年代より都市近郊に急速に建設され、職場は大都市へ暮らしは郊外といったベッドタウンを形成し活況を呈しましたが、やがて単一世代の一斉入居が地域の高齢化を招き、オールドタウンと化してゆきます。ショッピングの撤退や学校の統廃合といった公益·利便施設の縮小による生活環境の悪化や空き家の増加、コミュニティの崩壊という構造疲労に直面しています。

■展望
ITを活用したリモートワークによるワーキング・スタイルの多様化がもたらす職住近接の新たな暮らし方は、通勤による混雑や渋滞を回避するとともに、暮らし・仕事のベースとなる"まち"に興味を持ち愛着を感じることで、家族の在り方や地域コミュニティを新たなステージに導くブレークスルーを予感させます。
高齢化したニュータウンに再び多様な世代が 仕事や子育てを持ち込むことによって、空き家、空き地の利活用が進み、それに伴って新たな生活サービスや支援サービスが地域の公益的なポテンシャルを押し上げ、多世代・ 多用途がミックスした活気ある"リニューアルタウン"へと生まれ変わることが期待されます。

立地特性による都市の考察

3.地方都市
■課題
大都市への人口流出や大規模ショッピングモールの進出により中心市街地は空洞化し、地域産業が衰退、経済活動が著しく低下しました。また、人口減少と経済の低迷による税収の減少は、道路や橋梁、上下水道などの都市インフラの維持及び行政サービスの低下を引き起こすことが懸念されています。
■展望
サテライトオフィスやベンチャービジネスのインキュベーションとして、中心市街地の空きスペース活用による再活性化を進め、豊かな自然を活かしながら地域独自の文化や魅力を掘り起こす、オリジナリティを際立たせた“都市力”を武器に差別化戦略を推進します。さらに近隣の地方都市と連携し、都市機能の相互補完による経営の効率化をはかる 「コンパクト&ネットワーク」政策の積極的展開が求められます。

地方都市

4.農山漁村[里山・里海]
■課題
高度経済成長期におこった大都市への移住に伴う過疎化。エネルギー革命や木材輸入自由化が、林業を基盤とする地場産業の衰退を引き起こし、著しい人口減少と高齢化が進行するとともに、結束の強い人間関係が移住者を受け入れにくくしている固有の風土もあり、コミュニティ自体の消滅という危機に瀕しています。
また、戦後に植林され、現在伐採期を迎えながらも放置された人工林は荒廃が始まり、表土流出による水害や野生動物による農作物の被害や事故等、私たちの生活に影響を及ぼしつつあります。
■展望
本来、自給自足を前提としたライフスタイルを連綿と持続してきた村落は、水や食料、エネルギーの自立性が高く、貨幣を介さない伝統的な経済流通の習慣が残っていることも多く、自然災害に対応する生活の知恵が伝承され、潜在的にレジリエンスを備えていると言えます。加えて豊かな自然環境や自然と寄り添うライフスタイルには、都市生活では得られない癒しやアクティビティがあります。リモートワークの発展形としてのワーケーションやスロ ーオフィスといった、クリエイティビティを剌激するワーキングプレイスとしての可能性を予感させます。
このようなビジョンを展開するためには、情報インフラや居住施設の整備に加えて、地元住民と移住者とのマッチングやフォロ ーアップを担う人材や団体の活躍が求められます。

農山漁村[里山・里海]

C•B•Gをつなぐ
"都市再生トリセツ"が効果を発現するためには、市民(C)・企業(B)・行政(G)が三位一体となって取り組むことが求められます。都市再生やコミュニティの最終目標は市民の幸福な暮らしの実現にあります。ミサワホーム総合研究所では、暮らし文化の研究から自治体に対する都市政策の提言など、様々なフェーズでまちづくりをサポートしています。
私たち一人ひとりが、身近な暮らしから日本の国土へと繋がる環境の連鎖を理解し、自然の摂理に沿った開発を考え、持続的な国土利用の方針を築けるように、広い視野を持って一歩ずつ輝ける未来の創造に向けて進んでゆくための研究に取り組んでまいります。


参考文献

「森林・林業白書」林野庁 編

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